PROFILE:北海道生まれ、横浜育ち。高校卒業後に美容専門学校へ進学するが、美容師にはならず2008年3月に「スライ(SLY)」横浜店の販売員となる。さまざまな店舗を渡り歩き、ルミネエスト新宿店で働いた後、2012年7月から本社勤務に。「スライ」事業部のSNS運用担当から始まり、今では全ブランドのSNSを統括。今年、SNSチームのグループリーダーに Photo by MAYUMI HOSOKURA
デジタル化が進むファッション業界において、早くからSNS活用に力を入れてきた“デジタル先進企業”としてまず思いつくのはバロックジャパンリミテッド(以下、バロック)だろう。5月末時点で50万人近くのフォロワーを抱える「マウジー(MOUSSY)」などのブランド公式アカウントに加えて、インスタグラムで多くのフォロワーを抱えるインフルエンサー販売員が数多く在籍する。もちろん会社としてデジタル全般に注力していることでも知られ、最近ではインスタグラムから直接ECサイトへ送客するための新ECサービス「アミープラス(AMEE+)」を始めたばかり。そんなバロックには、SNS全体を統括する部署がある。SNSチームを取りまとめる松本つかさ・メディアマーケティンググループリーダー(以下、松本)に、デジタル先進企業ならではのお仕事術を聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):どうして今の仕事に就いたのですか?
松本:販売員を5年ほど続けた頃、自分が店長になりたいわけじゃないと気付いたんです。当時からSNSが好きだったので、ソーシャル関係の仕事もありだなと悩んでいた時に、今は同じ部署にいる生駒(幸恵・新規事業推進本部 Eマーケティンググループソーシャルメディアプロデューサー)さんに相談したら、「ちょうど今『スライ』のSNS担当を探してる!」って教えてくれて。目の前で事業部長に電話をしてくれて、このチームに入ることができました。
WWD:生駒さんがいたおかげですね。
松本:そうなんです。生駒さんとはたしか、クラブで出会ったんです(笑)。彼女は私と唯一同じ感覚を持ち合わせた人間。当時は私が販売員で、彼女が「リエンダ(RIENDA)」のSNS担当でした。まだインスタグラムが一般化する前に彼女はインスタグラムをやっていて、その場でフォローしあいました。その後特にからむこともなかったんですが、仕事で悩んでいた時に、「そうだ、生駒さんがいた!」と思い立って、ダイレクトメッセージを送ったことがきっかけでした。
WWD:現在の業務内容を教えてください。
松本:全ブランドのSNS運用を統括しています。もちろん実際の投稿など、運用もしています。アカウントもインスタグラムやツイッター、フェイスブック、ライン、ユーチューブとさまざま。ターゲットも違う全てのコンテンツをつなげて発信していく方法を日々考えています。
WWD:具体的にはどんなことをするのですか?
松本:ブランドのシーズンごとのコンセプトや打ち出しをもとに、顧客が買いたいと思ってくれるようにSNSをどう使えばいいかを考えています。今一番重きを置いているのはインスタグラムです。毎シーズンイメージビジュアルがあるのですが、そのデータをSNS用に作り替えたり、足りない素材については自社スタジオで撮影を組んだり。SNSからECサイトヘ誘導した際に違和感がないように、ECサイト側にクリエイティブの変更を相談することもあります。
READ MORE 1 / 2 やっぱり会社にいる時間が長い?
WWD:ソーシャル担当というと、“スマホにべた付き”というイメージがありますが、やっぱり会社にいる時間が長い?
松本:実はそうでもないんです。というのも、インスタグラムでうまくバズを起こすためには自社の発信だけではなく、モデルさんとの交流も欠かせません。よくモデルの方が商品をSNSに載せてくれますが、ステマになってはいけないので、普段から信頼関係を築けるように話をしたり、展示会で商品を紹介したり。あとは同業者の方と情報交換をしたりするので、週に2〜3日は外にいます。
WWD:SNSに関して、会社としての達成目標などはありますか?
松本:会社の中で売り上げを立てるサービス部門ではないため、具体的なフォロワーの目標設定などはありません。どちらかといえば、ブランドの売り上げ目標や具体的な売り出しアイテムを聞き出して、そこに対してSNSでどこまで貢献できるかを考える役割です。発売後の売り上げ初速に関与できていなければ追加の施策を考えるなど、スピーティーに動くことが重要です。これまではSNSの効果は数字として見えづらかったんですが、最近になって効果測定できる環境が整ってきました。SNSの運用方法を模索していた時代から、チーム体制が整って、検証ができるまで、ようやく形になってきました。
WWD:どんなチーム体制ですか?
松本:今は社員が4人いて、インターンもいます。みんなデジタルに対してかなり積極的です。壁を見て「インスタの背景に良さそう!」とか思っちゃう。洗脳しちゃったのかも(笑)。インターンも非常に重要で、インスタグラムで募集をしているんですが、客観的な若い意見を取り入れることで、私たちも勉強しています。
WWD:運用のために技術力が必要だと思いますが、どこから情報を仕入れていますか?
松本:もう、生活全てをささげている(笑)。仕事でもプライベートでも全てSNS目線で物事を見ています。SNSで好きな世界観の人がいればSNSストーカー並にその人の好きなもの・ルーツを辿ったり。そもそも、Mac製品が大好きで、Macの使い方を勉強しにセミナーに行ったりもします。あとは、生駒さん含めて社内でも新しいサービスや情報に対して意見交換を常にしています。Mac製品のアップデートがあるだけで「何が変わったんだ!」って必死になって(笑)。だからこそ、得た知識はチームのみんなやインフルエンサー販売員にすぐに教えます。逆に販売員でもデジタルに対して積極的な子は「この写真掲載したいんですが、どうですか?」と聞いてきてくれます。彼女らとも常にメッセージでやり取りをしています。
WWD:その中で、怒ることもあるんですか?
松本:もちろん、あります。彼女らにはかっこいいと思うことをやってほしいので、血迷ってポストしてしまったと感じられるものは指摘します。だんだんインスタグラムの世界観が迷子になる子もいて、そんな時は本社に呼び出します。怒るだけではなくて、何がやりづらいのか、どうすれば自分と同じ目線に立ってもらえるかを話し合います。自分も店頭にいたからこそ、わかる部分もあります。
READ MORE 2 / 2 SNS担当に休みはあるの?
WWD:とはいえ、ずっとSNSを見ていると疲れると思います。休みの日の息抜き方法はありますか?
松本:実際、仕事が好きなので、休みの日に仲間と集まって話をするのも苦ではないんです。でも、ずっと仕事のことを考えていると、何を考えているのかわからなくなることもありますね(笑)。そんな時はどこかへ出かけたり、よく寝てよく食べたり。「今日はもうスマホを見ない!」と、デジタルデトックスすることもありますが、1日経つと気になっちゃうんです(笑)。
WWD:休みの日にトラブルなんかがあると焦りますよね(笑)。
松本:ちょっとでもバグがあると、すぐ仲間に連絡します。以前、2〜3日投稿ができないことが一度あったんです。その時は本当に死ぬかと思いました(笑)。
WWD:やりがいを感じるのはどんな時ですか?
松本:いろんな人と交流をしていて、SNSのことをよく言ってもらえるとうれしいですね。あとは、販売員から相談を受けるなど、頼ってもらえることもとてもうれしいです。細かいですが、インスタグラムで画像を保存(クリップ)してくれた数も裏側でわかるので、これが極端に多いと喜びます。逆に、自信のある投稿がウケなかったら、へこみます(笑)。
WWD:ずばり、ソーシャル担当に向いている人とは?
松本:ポジティブでミーハーな人。もちろん、iPhoneやSNSが大好きな人です。何か決まった仕事があるわけではないので、あくまでも作業としてではなく、自分で考えてやれるかどうかが大切です。
WWD:今後の目標は何ですか?
松本:日本のSNSは遅れている、違う方向に向かっていると感じています。だから、大きな夢としては、SNSのあり方を変えたいんです。日本ではインスタグラムがビジネスとして成功することに気づいていない人が多い。日本では“フォロワーが増える=芸能人”という構図がありますが、海外にはインスタグラムで有名になって将来を切り開いている人がたくさんいます。日本でも販売員は服を売って終わりじゃないんだよ、というのを伝えたいです。それ以外にも素敵な未来があるんだから、もっと自分のカッコ良さを発信して大きな可能性をつかんでほしいと思います。会社としても、新しいことを日本で一番にやっていけるようにしたいです。まだまだブランドによって進捗にムラがあるので、全部のブランドが“いけてるSNS”を運用できるようにしていきたいです。
WWD:働いていて、会社が面白いと感じる部分はありますか?
松本:SNSなど新しいことに対しての理解度が高いことです。レスは早いし、好きなことをやらせてくれる。自由にさせてもらっているからこそ、結果は出したいと思います。SNSはスピードが命なので、承認に時間がかかってしまうと、すぐに置いていかれます。例えば、インスタグラムのライブ機能がスタートしたのが、ちょうど「マウジー」と「アディダス(ADIDAS)」のコラボ商品発売の直前でした。これはチャンスだ、と承認を得て、イベントでも活用することができました。
【自分の仕事 5段階評価】
「やりがいも将来性も5の高評価。技術力に関しては、テクニカルな部分に加えて感覚が必要なので、6くらいはいくのでは」