「服が売れない」と言われるようになって久しい。老舗アパレルは何百店もの店舗閉鎖や人員整理を余儀なくされ、右肩上がりの成長を遂げてきた新興アパレルも既存店の減収に歯止めがかからない。そもそも消費者の服に対する関心自体がしぼんでしまっている。
消費市場の花形だったはずのファッション業界でいったい何が起こっているのか。
5月29日に発売された「誰がアパレルを殺すのか」(杉原淳一、染原睦美・著、日経BP社)は、その疑問に応える一冊である。
刺激的なタイトルは、出版業界で大きな反響を呼んだ2001年のベストセラー「誰が『本』を殺すのか」(佐野眞一・著、プレジデント社)をなぞったものと思われる。そこから本書の意図は伝わる。川上から川下までのサプライチェーンを徹底的に取材し、数々の証言とデータからアパレル不況の“犯人”を浮き彫りにする。推理小説のようなスリリングな構成だ。かといって暴露的にならず、あくまで事実を丹念に積み上げていて、説得力がある。
冒頭に登場する大阪・西成の在庫処分業者(バッタ屋)は、一見華やかなファッション業界の矛盾を象徴しているようで印象的だ。広い倉庫にうずたかく積まれた段ボールの中身は、売れ残った有名ブランドの服。店頭では数千円、数万円で売られていたであろう商品が、一点あたり数百円で買い取られ、地方の小売店などに流れる。
国内の衣料品市場規模は、1991年に約15.3兆円だったが、2013年には約10.3兆円へと3分の2に縮小。にもかかわらず、供給量は約20億点から約39億点に倍増した。そんな矛盾を背景に繁盛する二次流通は、バッタ屋の社長が語る通り「必要悪」なのだろう。
自社でさばききれないほどの商品を供給するファッション業界に対して、本書の解説は容赦がない。「中国で大量に作り、スケールメリットによって単価を下げる。代わりに大量の商品を百貨店や駅ビル、SCやアウトレットモールなど、様々な場所に供給することで何とか商売を成り立たせる。需要に関係なく、単価を下げるために大量生産し、売り場に商品をばらまくビジネスモデルは極めて非合理的だが、麻薬のように、一度手を染めると簡単にはやめられないものだった。ムダを承知で大量の商品を供給しさえすれば、目先の売り上げが作れるからだ」。
自社ブランドでカニバリズム(共食い)を起こすほどの多店舗化の他にも、合理化と称してモノ作りを商社に丸投げしてしまったことによる商品企画の同質化、百貨店の消化仕入れの浸透による目利き力の衰え、“洋服好き”な若者を低賃金の販売員として使い捨てしてきたツケによる人手不足——。生々しい証言で問題点を浮かび上がらせる手法が鮮やかだ。
何気ない言葉だが、本質を突いていると思ったのは、あるアパレル関係者による「洋服だけでなく、経営もトレンドに流されやすい」というコメント。思い当たる節は数限りなくある。ファッション業界人なら苦笑いしながら、深くうなずくに違いない。
本書は現状に警鐘を鳴らすだけでは終わらない。アパレル業界の構造的問題を見据えたうえで、業界の外からITを武器にイノベーションを起こそうとしたり、業界の中から既存のルールを挑戦したりする国内外の新興プレーヤーたちの姿を紹介しており、一筋の光明を感じさせる。とりわけ、生家の老舗百貨店・松菱(浜松市)の倒産を高校時代に体験した谷正人・社長(33)が創業したトウキョウベース(TOKYO BASE)のストーリーは示唆に富む。