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代官山の美容師から栃木の“かご作家”に 彼女の転機とは?

 瀬尾千夏さんは、沖縄・宮古島の伝統工芸、チガヤ細工のかご制作を行うかご作家だ。職人としてのキャリアは1年程度だが、すでにセレクトショップやギャラリーからオファーを受け、企画展に出品するなど各所から注目を集めている。そんな彼女は2015年末まで、代官山の有名サロン「ダブ(DaB)」に所属し、業界誌にもたびたび登場する有名スタイリストだった。美容師として第一線を走り続ける生活から離れ、かご作家としての人生を選んだ理由とは。人生のターニングポイントとチガヤ細工との出会い、現在の暮らしについて聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):まず、現在の生活スタイルは?

瀬尾千夏(以下、瀬尾):2015年12月末に「ダブ」を退社し、2カ月間沖縄・宮古島でチガヤ細工のかご作りを学びました。現在は地元である栃木県の茂木(もてぎ)町を拠点に、週の半分は宇都宮のサロン「カリオカ(KARIOCA)」でサロンワークを行い、もう半分をかごの制作に充てています。かごは、現在は声を掛けていただいた企画展やイベントなどで販売しています。

WWD:チガヤ細工との出合いは?
 
瀬尾:昔からモノ作りや職人に対する強いあこがれがありました。それと同時に、日本には跡継ぎがいない工芸がたくさんあることも知っていて。4、5年前から「自分でも何かできることはないかな?」と具体的に調べ始めて以来、どんどんモノ作りに魅せられていきました。実際に挑戦したい工芸の候補はいろいろあったんですが、チガヤ細工との出合いは偶然。3年前の夏休みに宮古島へ旅行に行ったことがきっかけでした。地元のばあちゃんが街のためにやっているような体験教室に行ったら、すごく楽しくて。宮古の人たちにもほれ込んでしまって、「これが大好きだ!」と。そこから宮古島への移住も含め、真剣に考え始めました。

WWD:「ダブ」は都内でも屈指の人気サロンだが、退社すること、東京を離れることに未練はなかったか?

瀬尾:仕事は大好きでしたが、新卒で「ダブ」に入った当時から、10年が一つの区切りだと思って働いてきました。アシスタントとして3年、スタイリストデビューして10年、という良いタイミングでしたね。もともとは10年で独立しようと考えていました。でも、「こんなサロンを作りたい」という明確なビジョンが浮かばず、それと同時に民芸や工芸、モノ作りへの気持ちがどんどん膨らんでいったんです。

WWD:美容師として第一線を走ってきた中で、仕事がつらくなったり、ハードな働き方に疑問を抱いたりすることはなかったか?

瀬尾:美容師は朝早く夜遅く、週6日の勤務が基本ですが、働くのがつらいと思ったことはなかったんです。「もっと遊びたい!」とかはありましたけど(笑)。もともと本当に美容師になりたかったから、お客さまの期待に応えるためにはそれくらい働くのが当たり前だと思っていましたね。やりたくてやっていたから時間を割くのも苦ではなかったし、好きだから飽きなかった。かご作りも、美容師のほかにやりたいことがもう一つ増えちゃった、という感じなんです。

WWD:活動拠点に地元・栃木県茂木町を選んだ理由は?

瀬尾:隣町が陶器で有名な益子(ましこ)なのですが、実は茂木にも革細工や竹細工、木工などモノ作りに携わる方がたくさん住んでいて。高校の同級生が陶芸家として独立していたり、地元のおじいちゃんが竹細工を教えてくれたりと、良い環境がそろっていたんです。周りの人と「何か一緒にやりたいね」と話せるし、おもしろそうなことには便乗することもできる(笑)。東京もすごく好きだから、日帰りで行き来できる立地というのも大きかった。退社後に宮古にかご作りを習いに行ったときには移住も視野に入れていたのですが、かごに使うかわいいパーツ一つ買うにも離島送料がかかるなど、現実的なことも見えて。2カ月過ごした結果、総合的にメリットが多い栃木に戻ることに決めました。

WWD:日本の工芸や民芸、モノ作りの現場の後継者不足は深刻な課題だ。

瀬尾:日本にはすてきな民芸や工芸がたくさんあるけれど、「お金にならなくて、後継ぎがいない」という状況に陥っているものも多い。課題はいろいろあると思いますが、それは必ずしも市場や受け手だけによるものではないかもしれません。たとえばチガヤ細工に関して言うと、かごを作ることは暮らしの中に長く根付いた習慣でもあって。商売を強く意識していない作り手も多いので、安すぎる値段で売りに出してしまっていたり、作りがちょっと粗いものがあったり。きちんと作ればちゃんとした値段で売れるのに、もったいないと感じることもあります。もちろん受け手側にも、昔ながらの民芸品は手入れすれば長持ちするし、利便性も高いということを知ってもらいたい。何より、誰かが一から手間をかけて作ったものを使うことに愛着を感じてもらえたらうれしいし、きちんと価値を見出す努力をすることも必要だと思っています。また、職人さんたちは外に向けた発信が得意でない方も多いのですが、そこは東京で美容師として暮らして、たくさんの人とのつながりもある自分がサポートできるところだと思っています。

WWD:チガヤ細工との出合い、退職、移住を通して変わったことはあるか?

瀬尾:視野が広がりました。やっぱり宮古に行ったことも大きかったし、衝撃的だった。宮古には、怒っている人がいないんですよ。言葉の雰囲気も不思議で、例えば島の人の誕生日会に誘ったら、「行けるはずさ」って返ってくる。どっちか分かりませんよね(笑)。そして、その人が来なくても誰も怒らない。それくらいおおらか。単にスローライフにあこがれていたわけではないけれど、自分の考え方にも変化があったと思います。

WWD:今後の目標は?

瀬尾:自分にできることは何でもやってみようと思っています。美容師として第一線を走っていたころは100%の時間を美容にささげてきましたが、周りの方々の協力もあり、今はいろいろできる環境を作ることができたので。チガヤ細工のかご作りをずっと続けながら、新しいモノ作りにも挑戦していきたいです。

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