PROFILE:今北舞はモデル活動の後、サンデザイン研究所でファッションショーのPRアシスタントを経験する。その後、ウェブ制作会社のロクナナ、ワヴデザインでウェブデザインを担当。2013年からフリーランスとして活動をスタートし、デジタルコンテンツを中心に「シュウ ウエムラ(SHU UEMURA)」、三越伊勢丹などファッション、ビューティのアートディレクションのほか、アプリのUIデザイン、キリン、DeNAなど企業のプロモーション制作も手掛ける。
アートディレクターでウェブデザイナーの今北舞(以下、今北)は、ファッションショーのPR、ウェブ制作会社を経て、現在はフリーランスでファッション関連の仕事のほかゲームのプロモーションサイトのデザインなど幅広く活躍している。アートディレクションと聞くと、何となくわかっているようでいて具体的な仕事像をイメージしづらい。業務内容はもちろん、フリーランスと会社員の違いなど、さまざまな環境でキャリアを重ねてきた彼女ならではの話を聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):フリーになるまでの経緯は?
今北:20歳前後に2年間ほど、モデル活動をしていました。当時は、目標に対してどのような努力をすべきか客観的に見れていなかったです。今思うと、そこが自分と成功するモデルさんとの大きな違いでした。その後、ファッションショーの制作会社でPRアシスタントをしたのですが、そこで学んだことが大きかったです。23、4歳で、ビッグメゾンのショーやイベントなど一流の現場で働くという貴重な経験をしました。そこにいる人たちが何を思って動いているのかを見て、チームワークを学びました。一つのものを作り上げる上で、1人ではなし得ないことがあるということを体験として理解できたことが、現在のコンテンツ制作の根幹になっています。その後、高校生の頃から興味を抱いていたウェブコンテンツを扱う仕事への転向を決意しました。というのも、当時のリアルな制作現場にはまだウェブコンテンツがほとんど入ってきていなかったので、自分にできることはウェブデザインにあると感じ、ウェブ制作会社に転職しました。その後2013年にフリーランスとして活動を始めます。ちょうどその頃、働き方を考えるということが世間的なムーブメントとしてあり、自分の作業場と時間を持って、仕事をする環境を整えることが自分のクリエイティビティを高めることにつながると思い、フリーランスに踏み切りました。
WWD:フリーランスを始めたばかりの頃に仕事はありましたか?
今北:私の場合、ありがたいことに以前勤めていた会社やこれまでに出会った人から仕事をいただきました。横のつながりが強く、上下関係が少ない業界なのでフリーランスであっても仕事をいただけるチャンスはあると思います。
WWD:アートディレクションとは具体的にどういう業務ですか?
今北:私の場合、PCやスマートフォンなどデジタルコンテンツを交えた仕事が多いです。商材がどのようなメッセージを発信したいのか、ブランドの方向性やアイデンティティーをどのように伝えるのか。それに合った装飾やコピーライティングを考え、一つの成果物としてユーザーにコミュニケーションする仕事です。基本的にデザインはメッセージだと思います。ユーザーが素材を投稿することでウェブサイトの見え方が決まる参加型のコンテンツもあります。ロックバンドONE OK ROCKの新作キャンペーンに携わったのですが、アルバム「アンビションズ(Ambitions)」のリリース時に、「WORLD AMBITIONS」という特設サイトを製作しました。アルバムのキーカラーであり、希望を象徴する黄色の画像をウェブサイトやSNSに投稿するようにユーザーに呼びかけました。黄色=“希望”の画像を世界中にあふれさせようというキャンペーンです。ユーザー参加型ではなく、クライアントが伝えたいメッセージをシンプルに落とし込む場合もあり、その二軸でどちらがマッチするかを判断しています。
WWD:紙面のデザインもしていますか?
今北:紙面の仕事もあります。ECサイトを簡単に作ることができるC to Cのサービスがあり、小さいファッションブランドやデザイナーがよく利用しているのですが、そうしたライトなサービスでは、できることや見え方に限界があります。そこで、ワンランク上のECサイトを作ることになり、ルックブックをダイナミックに見せることができるサイトを構築しました。さらに撮影まで行い、ルックブックを提供するサービスになっています。そのようにウェブと紙の商材をパッケージで提案するというパターンが多いですね。
READ MORE 1 / 2 デザインの良し悪しを決めるのはコミュニケーション力?
WWD:ウェブデザインの醍醐味は?
今北:デザイナーは、一つのサービスの全体を自分でハンドリングし、一定のトーンとマナーで統一されたメッセージを伝えないといけません。目的、メッセージに合わせて枠を決めていく作業にやりがいを感じます。私が1人でできることは全くありません。かつて先輩に言われたことなのですが、誰かにちゃんとお願いすることができないと良いものは作れません。CGデザイナー、カメラマンといった人たちに力を借り、彼らの舵取りをして軌道を合わせていくことがわたしの役目です。そこで生まれるコミュニケーションが楽しく、勉強になります。管理画面などユーザーに見えないところもデザインであり、その部分の専門家の技術力に対するリスペクトがないと務まりません。彼らがよくよく考えた上で一つのコンテンツが成り立っていることを理解することで、デザインに反映できることもあります。
WWD:仕事で特にこだわっているところは?
今北:紙と違って画面が動いたらどうなるのか考えています。なので、デザインをしながら常にスマホと連動させて画面を確認します。使い勝手が悪い構成になってしまった場合や、もっとワクワクするデザインがあれば、作った後でも仕様を変えてしまいます。プログラマーには嫌がられますけど(笑)。
WWD:デザインする上で会社とフリーランスの違いはありますか?
今北:組織の中では、いつでも周囲とコミュニケーションが取れる環境があることがメリットですね。自分がトライしたいことに対して自分の力以上のパフォーマンスを発揮できることも強みです。それに対して、フリーのデザイナーは、会社という傘がなく、私自身を信頼して依頼があるので会社にいたとき以上に当事者意識が強くなりました。妥協が一切なくなりましたね。
WWD:ハードな仕事の中でどうやって息抜きをしていますか?
今北:ゲームが好きです。遊びながらついつい操作性など細かい点を見てしまうのですが。ゲーム関連のデザインもやっていて、ジャンルを問わずモヤモヤしているものをパッケージに落とし込むのが得意です。いつのまにか仕事の話になってしまいました(笑)。あとは食べることです。都立大学に行きつけのお寿司屋さんがあって、疲れてぐったりしている時にはニンニクのホイル焼きを出してくれます。お店の大将や女将さんとたわいもない話をしていますね。
READ MORE 2 / 2 ウェブデザインのフィールドに変化の兆し
紙とペンも大事な仕事アイテム。紙に書いて見せると説明がすんなり伝わる場合があるそう
渋谷・富ヶ谷にあるワヴデザインの事務所をシェアオフィスで利用している
WWD:どんな人がデザイナーに向いていますか?
今北:一概には言えませんが、変化が大きい業界なのでウェブデザイナーに関して言えば変化を楽しめる人だと思います。そして研究心、探究心がある人。誰かのために何かを作りたいと思った瞬間、みんながデザイナーだと思います。息を吸うように日常的にそれができる人に向いているのではないでしょうか。
WWD:お話を聞いていて、説明がとてもわかりやすいです。プレゼンテーションのコツはありますか?
今北:会社の同僚や、フリーになってからも周囲の人に見てもらい練習をしていました。一度リハーサルをすることで、尺の長さや足りない部分、絵を出すタイミングなどを確認してもらいます。部屋にプロジェクターがあれば必ず使いますね。メリハリをつけて、どこに山を持ってくるのかを考えていました。芸人みたいかも(笑)。“場を温めてからのドン!”というシナリオを作っていきました。プレゼン中にクライアントから意見があれば、そこが相手の一番気にしていることだったりするのでその場で変更を加える瞬発力も大切です。確約できなくとも、こういう発展性はある、そういう考え方もありますね、とその場で打ち返してゼロにはしないことです。これは打ち合わせでも同じことが言えます。こうしたコミュニケーションのノウハウはPRアシスタント時代に培ったところもありますね。
WWD:今後の目標はありますか?
今北:ファッションイベントなどリアルなイベントの中で、デジタルサイネージやプロジェクションマッピングなどインタラクション性・ソーシャル連携を強めたプロジェクトをやりたいとの依頼がここ最近で増えてきました。今まではモニター越しで見た世界観の中で表現できれば成功、その上たくさん見てもらえれば大成功でした。今後はユーザーが生活している場に設置面が増えてきた中、どういうコミュニケーションができるか、いかに人を回遊させるかが問われています。変化が大きい業界で、感度を絶やすことなくどんな状況でもベストなものを出し続けて行きたいですね。
【自分の仕事 5段階評価】
「やり甲斐はめっちゃあります!プライベートな時間は……。全部仕事ですね(笑)」