企業計画を説明する出澤剛CEO
中期計画の3本の軸
会場は満員だ
LINEが6月15日、年間の事業計画を発表する「LINEカンファレンス2017」を開催した。2011年にコミュニケーションアプリとしてスタートしたLINEは6年間で主要4カ国での月間利用者数(MAU)を1億7100万人まで広げた。1日のメッセージ送受信量は最大270億回。しかも、毎日利用するユーザーの割合が72%、1日の平均利用時間が40分と日常への高い浸透度にも驚きだ。17年1〜3月期のEC・決済の流通総額が前年同期比47%増の550億円、広告収益が同49%増の140億円と企業としての成長も止まらない。
「LINEカンファレンス2017」で出澤剛LINE社長兼最高経営責任者(CEO)は中長期戦略として3本の柱「EVERYTHING CONNECTED(全てがつながる)」「EVERYTHING VIDEOLIZED(全てがビデオ化される)」「EVERYTHING AI(全てがAIになる)」を掲げた。全てに共通するのは“コミュニケーション・ファースト”で、コミュニケーションを豊かにするための手段だと強調する。
「EVERYTHING CONNECTED」
LINEで全てがつながる世界
はじめの「EVERYTHING CONNECTED(全てがつながる)」について出澤CEOは、「ユーザーと情報の接点はウェブからアプリ、個別アカウントへと移行してきた。今後はチャットこそが情報流通の本命・ハブになるはず。すでに自動販売機や宅配便、会員カードなど、“つながる”分野はリアルへ拡大している」と語る。企業とユーザーをつなぐビジネスアカウントも好調で、ユーザー数と企業フォロワー数を平均すると、1ユーザーあたり42の企業アカウントとつながっている計算になるという。驚異的な数字だ。ヤマト運輸の再配達依頼アカウントやJR東日本の空きロッカー検索アカウントなど、確かに便利なアカウントは多くある。これらアカウントにお財布機能「LINEウォレット」を組み合わせれば、「LINEで情報を見て利用して、支払いをする」という日常の全てのフローがLINEを介して完結することになる。これこそ同社の目指す“全てがつながる未来”だろう。
“つながり”という目的で発表された新たな取り組みが2つある。ECモールのローンチと内閣府「マイナポータル」との提携だ。新ECモール「LINEショッピング」にはすでに三越伊勢丹やオンワード、ナイキ(NIKE)、ジーユー(GU)など、100を超えるブランド・企業が参加しているが、既存ECモールと異なり、モール内に買い物カゴや決済といったEC機能を一切持たない。あくまでブランドの自社ECへLINEユーザーを送客するためのサービスだという。
LINEが強調するECの“つながる”魅力は、ユーザー送客以外にもある。その事例として田端信太郎上級顧問はLINEを用いたカスタマーサポートをあげる。「コールセンターをLINEのチャットにすることで、待ち時間がなくなり、顧客満足度は確実に上がる。ユーザーの声をチャットから集計して解析すれば、商品開発につながる情報になるかもしれない。守り一辺倒だったカスタマーセンターを貴重な資産につなげられる」。
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「EVERYTHING VIDEOLIZED」
動画オリエンテッドの世界へ
ゲストとして登場した高市早苗総務大臣(右)
アカウントビジネスについて説明する田端信太郎・上級顧問
動画ビジネスの現状を解説する佐々木大輔・執行役員
2つ目の「EVERYTHING VIDEOLIZED(全てがビデオ化される)」はコミュニケーション手段の動画化を予測するもので、すでにある同社の動画アプリ「B612」「SNOW」の拡大に加えて、LINEニュースやLINE自体に動画をより使いやすい形で埋め込んでいくという。リアルタイム配信サービス「LINE LIVE」や「LINE TV」の知見からも、動画を見た人は「買いたい」「行きたい」などのアクションをしやすい傾向にあるといい、2020年までの5G国内導入を視野に、あらゆる部分で動画オリエンテッドの世界を作っていくことを約束した。
「EVERYTHING AI」
ポスト・スマホ時代は全てがAIに
“クローバ”を披露する桝田淳・取締役
“クローバ”を披露する桝田淳・取締役
ファミリーマートとの提携を発表する澤田貴司ファミリーマート社長(右)
会場が最も盛り上がったのは、最後の「EVERYTHING AI(全てがAIになる)」の発表だった。出澤CEOが「生産性の向上のためにAIへのシフトは避けらない。AIのインパクトはスマホ革命を超えるだろう。当社はすでに”ポスト・スマホ時代”を見据えたAIの開発に取り組んでいる」と自信満々で披露したのが、クラウド AI プラットフォーム“クローバ(clova)”だ。“クローバ”は音声や画像を使って秘書のようにユーザーの生活をアシストするクラウド AI プラットフォーム。まずは今年秋までにスマートスピーカー“wave”を発売するという。値段も1万5000円と手頃で、会話や音楽の再生、ニュース配信、カレンダー機能などLINEのサービスを超えた日常のあらゆるサポートを可能にする最先端ロボットだ。
加えて、LINEは“未来のコンビニ作り”のため、伊藤忠商事とファミリーマートと組んでAIを含めた各種サービスを連携する。登壇した澤田貴司ファミリーマート社長は、「レジのない未来の店舗といえば『アマゾンGo(Amazon Go)』と何が違うのかと言われるが、われわれが考える実店舗の資産とは人自体なわけで、人のいる環境作りを目指し、インフラ面でLINEと取り組んで行きたい」と強調する。カルチュア・コンビニエンス・クラブが展開するTポイントとファミリーマートの連携の今後については明らかにしなかった。
マイナンバーに関する提携にとどまらず、国内2位を争うファミリーマートと店舗作りに取り組むということは、もはやLINEがコミュニケーションアプリの会社ではないことを意味する。インターネット発の企業がオフラインへと市場を広げ、全ての生活のタッチポイントに入り込むことで、LINEは5年後のインフラストラクチャーを目指しているのは明らかだ。その一方で、動画プラットフォームを使ったCtoCサービスの拡充、ファッションECへの送客支援や決済機能などのBtoC支援サービスの継続といったように、既存分野の成長も怠らない。国内MAU6800万人とすでに国民の過半数をユーザーとして持つLINEが5年後に描く“完全なる日本のインフラ企業”という理想像が確実に現実味を帯びてきた。