最近も資生堂のショップをオープンするなど、成長を続ける「ゾゾタウン(ZOZOTOWN) 」。そんな「ゾゾタウン」最大の関心は、かねてからローンチを公言している自社で手がけるプライベートブランドでしょう。直近の決算会見でも前澤友作・社長が「今期の計画にコストを盛り込んでいる。今期こそは絶対にやる」と宣言しました。ちなみに、発表資料によると今期の設備資額は20億円と前期(約11億円)の2倍近い数字。これはいよいよ何かが始まりそうです。そこで、思い切って前澤社長がPBを作るなら何をやるのか、真面目に考えてみることにしました。最初に断っておきますが、全て勝手な推測です。
まず、直近の決算からスタートトゥデイの狙うところを考えます。17年3月期の商品取扱高は前期比33.0%増の2120億円、経常利益も同47.9%増の264億円と変わらず高成長が続いています。この背景には中古アイテムの買取・販売サイト「ゾゾユーズド(ZOZOUSED)」の強化があります。「ゾゾタウン」で買って、いらなくなったら「ゾゾタウン」で売ってもらう。そうして安い価格でもう一回売ることで繰り返し利益を得られるんです。これが功を奏してリピーターが増えました。でも、中古品の割合が増えれば、顧客の平均年間購入金額は落ちます。出店ブランドも少しずつ増えづらくなって、全体として新しい商品の流通が少なくなりました。
一方で、先ほど述べた通り顧客の購入金額・購入点数は右肩上がり。ここで問題なのが、顧客の高齢化です。中心ユーザーが「ゾゾタウン」と一緒に年をとり、今では平均年齢32.8歳。きっと若年層の囲い込みをしたいはずです。そう、スタートトゥデイが抱える悩みは若年層(新規顧客)の獲得と取り扱いアイテムの拡大です。きっと、PBで商品を増やして若い顧客を捕まえるに違いない!
そんな中、前澤社長は自身のツイッターに以下のようなヒントを出しています。
前澤社長の公式ツイッター(@yousuck2020)から
・世界初の試みになると思います。
・ICT、IoTをフル活用します。
・企画開始から6〜7年かかってます。
・老若男女、広くお楽しみいただけます。
なんだか、ただ事ではなさそうです。ICTとは“情報通信技術(Information and Communication Technology)”の略。モノ作りにデータを活かしましょう、ということです。たしかに、954ショップ3928ブランド(17年6月時点)の商材を扱う「ゾゾタウン」には、おそらく日本のどの企業よりもいろんな洋服に関するデータがそろっています。どのブランドのどんな洋服がいつどのくらい売れるのか、全て知っています。でも、情報をフル活用して作る老若男女が楽しめる洋服って何だろう……。
READ MORE 1 / 2 ICTを使った洋服作りってなんだ?
と考えていると、思いつきました!このデータをブランドに教えてあげればいいのです。「御社のこの商品がすごく好調なので来シーズンはもっと作ってください!」みたいなことを全ブランドに教えてあげればいいんです。そうしてブランドはデータに基づいた忠実な数の洋服を生産すれば、無駄なく全て売り切ることが可能になるかもしれない。目指せ、全ブランド消化率100%!
これは、ユニクロが今年宣言した「製造小売業から情報製造小売業へ」という考え方に近いと思います。従来のように洋服を大量生産するのではなく、店頭の声を反映した効率的なモノ作りで無駄のない生産体制を築こうということです。“マス・カスタマイゼーション”という言葉をよく聞きますが、その進化系というイメージでしょうか。スタートトゥデイは自社のビッグデータを全ブランドの生産管理システムと連携して、毎シーズン生産のアドバイスをします。ブランドにとっても他企業のデータを掛け合わせた「ゾゾタウン」の売り上げ・顧客データは魅力的なはずです。スタートトゥデイはビッグデータの解析企業になるのです。
前澤社長のヒントにもう1つ難しい言葉があります。IoTです。IoTとは“モノのインターネット(Internet of Things)”のことで、あらゆるものをインターネットにつなぐことで常に最新データを反映するという考え方です。こちらはスマートウオッチが普及したことで、だいぶ一般的になってきたかと思います。前述のようにICTを使って生産体制が整ったとすれば、IoTを使うのは販売側でしょうか。お店でIoTを使った施策といえば……ピンとくるものがありませんか?
READ MORE 2 / 2 スタートトゥデイが行ったIoT施策があった!
そう、LINEと提携して試験的に進めていたビーコン施策です。結局実用化はされませんでしたが、計画ではアパレル店舗の商品タグにLINEビーコンに反応するボタンをつけることで、気になった商品の情報をすぐにスマホに送信できる仕組みを構築しようとしていました。
もしも、この店頭ビーコンをPBに合わせて導入したら……すごいことが起こります!「ゾゾタウン」に参画する954ブランドの実店舗にビーコンを導入したとします。ユーザーは欲しい商品のサイズや色がなかった時にボタンを押して商品情報をスマホに送るのです。スマホでゾゾタウンの専用画面を表示し、そこで欲しいサイズや色を指定すれば、ブランドから「ゾゾタウン」経由で指定した商品が自宅に届くというフローです。ブランドは「ゾゾタウン」の売り上げ予測に則って生産をしていていますから、注文される商品が分かっています(売り上げ予測といっても個別ではもちろん分かりません。シーズンで累計した売れる商品の合計値が予測されています)。だからブランドはすぐに商品を発送できます。
このビジネスの最大の特徴は誰も損をしないということです。「ゾゾタウン」を経由した販売なので、もちろんスタートトゥデイには収益が入ります。一方、ブランドにとっても「ゾゾタウン」で商品が売れるのと同じだけの収益が得られるので損はありません。むしろ、店頭に全ての在庫を置く必要がなくなる(ショールーミング化できる)ので、店頭消化率を上げることもできるんです。「ゾゾタウン」がブランドの店頭顧客を総取りしつつも、ブランド側が痛手を負わない素晴らしい構図なんです。唯一痛手を負うとすれば、売り上げに依存して賃料を課しているディベロッパー側かもしれません。もちろん、一番困るのは物流を担うヤマト運輸ですが……。
以上をまとめると、「ゾゾタウン」のPBは以下のような仕組みになります。
・ゾゾに出店する全ブランドとICTを活用して連携
・売上データから翌シーズンに売れる商品を正確に予測・生産
・店頭にLINEビーコンを導入
・来店客は店頭で商品を見て欲しい情報をスマホに送信
・スマホで欲しい色・サイズ・型を選んで注文
・自宅に自分だけの洋服がゾゾから届く
これが果たしてPBか、と言われれば若干怪しいですね(というか既存概念のPBではないかもしれません)。でも、「ゾゾタウン」主導で一から洋服を作るのではなくて、あくまでECベンダーとして提携ブランドをサポートしつつ、次のステージを目指すという新しいビジネスモデルです。店頭にない色も形もサイズも、「ゾゾタウン」のサイトを見れば全てがそろっている。言うなれば、「全商品『ゾゾタウン』別注のプライベートレーベル」。これは最強ですね。とはいえ、これは全て僕の妄想でしかありません。むしろ、これらのアイデアを軽く裏切る前澤社長の“カッコいい”奇策が発表されることを心待ちにしています。