米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com、以下アマゾン)が米スーパーのホールフーズマーケット(Whole Foods Market、以下ホールフーズ)を137億ドル(約1兆5070億円)で買収する。自宅試着サービス「プライム ワードローブ」や「アマゾン ダッシュボタン」「アマゾン エコー」などオンラインの枠を超えた新サービスを続々発表するアマゾンが、次なるオフライン施策として460店舗を持つ食料雑貨店を獲得した形だ。
一方で、小売企業売り上げランキングナンバーワンのスーパーマーケットチェーン、ウォルマート・ストアーズ(以下、ウォルマート)も負けてはいない。ウォルマートは6月、米百貨店ノードストロム(Nordstrom)100店舗以上で販売している紳士服ブランド「ボノボス(BONOBOS)」買収を発表した。買収額は3億1000万ドル (約341億円)。「ボノボス」は近年、「ボノボス ガイドショップ」と呼ぶショールーミングストアの拡大に注力しており、今年も15店舗以上の出店を計画しているオムニチャネル指向の強い企業だ。ノードストロムとの関係は今後も続けるものとみられる。ウォルマートは昨年EC企業のジェット・ドット・コムも買収しており、店舗起点のオムニチャネル施策を事業の中心に据えている。2017年2〜4月期決算のECでの売り上げも前年同期比63%増と好調だ。
店舗数でいえば、ウォルマートが4672店舗とホールフーズの約10倍の実店舗を持つ。しかしウォルマートが地方を中心に店舗展開するのに対し、ホールフーズは都会の高収入所得者層が住む地区に多くの店舗を出店している。高級志向こそがホールフーズ最大の特徴。都会を中心に“オーガニック”“サステイナブル”などのキーワードを打ち出している。
アマゾンがオフラインを強化する上でキーワードとなるのが、この高級志向というブランディングだろう。EC最大の弱点は店舗ほどのブランディングができないこと。だからこそ実店舗では、いかに顧客満足度を上げるかが鍵となる。特にファッション業界において、ブランディングは死活問題だ。アマゾンはこれまでも「アマゾン ファッション」という専用カテゴリーを設け、他ページとは異なる設計でファッション好きなユーザーの顧客満足度を上げることに注力してきた。店舗こそ少ないが、ホールフーズを買収したアマゾンが、オムニ戦略を推進するウォルマートにとって、より大きな脅威になることは間違いない。どちらかが一人勝ちするという業界筋の読みは少ないが、両社に代表されるオムニチャネル先進企業の次の一手に注目したい。