ゲッティイメージズ(Getty Images)は、8月6日まで東京・恵比寿の「東京都写真美術館」で開催している「世界報道写真展コンテスト2017 変えられる運命」(以下、世界報道写真展)の審査員を務めるアダム・プリティ(Adam Pretty)による、ナビゲーションツアーを開催した。
展示されている受賞作品の審査員として参加したアダムがナビゲーターとなり、審査のエピソードや選出された作品の経緯やポイントを紹介。「批判的に聞こえるかもしれないが、これまでの『世界報道写真展』は、審査員にスポーツ写真家が不在のため、毎年似たような作品が選ばれる傾向があった。しかし、今回から私が審査員に選ばれて誇りに思うし、スポーツ写真家が選ばれたことで、より幅の広い作品が入賞した。非常に良い機会だと思う」とコメントした。
同展では、スポーツの部の組写真で1位を獲得した、ジョバンニ・カプリオッティ(Giovanni Capriotti)による、選手全員がゲイのカナダのラグビーチームの日常を綴った作品や、ダレン・カラブリーズ(Darren Calabrese)の手足がない女性がクロスフィットをしている写真など、ドキュメントともとれるスポーツ写真も展示している。身体障害者や未だタブー視されている、スポーツ界における性のカミングアウトなど、社会問題をあぶり出すようなメッセージ性の強い写真は、真実をありのままに表現している価値のある作品だ。
自身もスポーツ写真家のアダムは、「ラグビーをするゲイの選手の写真も、手足のない女性がクロスフィットをする写真も、瞬間ではなくストーリーに注目してほしい。日々のライフスタイルにフォーカスすることで、それぞれのコミュニティーにおける課題が見つかるはずだ。オーストラリアのトップアスリートは、スポンサーシップを失うことを恐れて同性愛者ということをカミングアウトする選手が少ない。それは良くない傾向で、社会的な問題を取り上げることで、この作品は評価されたんだ」と、社会問題に切り込んだ写真作品が受賞した経緯を語った。
一方で、キャメロン・スペンサーが撮影した、フランス人テニスプレイヤー、ガエル・モンフィス(Gael Monfils)のレシーブの瞬間の写真については、「僕もこういう写真を撮りたい。1996年から、8回以上も全豪オープンを取材してきたが、今でもこんな写真を撮るのは難しい。ライティングや影、首筋の筋肉の動きなど躍動感も全て完璧なスポーツ写真だ」と、一瞬を切り取る、ストレートなアクションの強さも絶賛した。
アダムは日本在住の写真家で97年、シドニーで報道写真家のキャリアをスタート。その後はスポーツ専門の写真家として活動。98年にゲッティイメージズに入社し、2000年のシドニーオリンピックから夏季、冬季通じて計7回のオリンピックで撮影に臨んでおり、“一瞬の動き”を捉えた、独特のアングルや構図の水中写真を得意とする。
「世界報道写真展」は毎年、世界中の約100会場で開催される世界最大規模の写真展。60回目となる今年は、世界125の国と地域から5034人のフォトグラファーが参加し、8万点以上の応募があった。大賞はトルコの首都・アンカラで開かれた写真展で、現地の警察官が駐トルコ・ロシア大使を射殺した事件をとらえた、ブルハン・オズビリジ(Burhan Ozbilici)の作品が受賞した。 また、スウェーデンのアフトンブラーデット(Aftonbladet)紙のマグナス・ウェンマン(Magnus Wennman)は、イスラム国の恐怖と食糧難によってやむなく郷里を去り、避難民キャンプで過ごさざるを得ない子どもの姿を撮影。子どもが夢や希望をなくす姿を静かに伝え、人々の部で単写真1位を受賞。リオデジャネイロ・オリンピックの決定的瞬間をとらえた作品や漁具により生命が脅かされるウミガメの姿など、同展には、世界の現状を伝える写真や、紛争や環境問題、スポーツの決定的瞬間から日常的な場面に至るまで、世界の“今”を切り取った貴重な作品が並ぶ。