靖国神社近くにひっそりとたたずむ旧山口萬吉邸
築90年のスパニッシュ邸宅
庭には大樹などグリーンも多く残る
アーチやタイル、手すりなど随所にスパニッシュ建築のデザインが残る
地上3階地下1階の4層で、延床面積は約800平方メートルを誇る
屋上テラスも併設されている
国際的なビジネスサロンとして再生する「(NI-WA 九段北倶楽部1927」を始動
シンポジウムは会場には立ち見も出るほど盛況だった
シンポジウムに登壇した岩崎春夫・寺田倉庫常務兼COO(左)、岩本裕リアルゲイト社長(中)、ファシリテーターを務めた吉川稔・東邦レオ社長兼NI-WA社長
靖国神社にほど近いビル群の一角に残る旧山口萬吉邸は、東京タワーも手掛けた内藤多仲が設計した築90年のスパニッシュ邸宅だ。これを国際的なビジネスサロンとして再生するプロジェクト「(仮称)NI-WA 九段北倶楽部1927」が6月、キックオフイベントを開催した。初日はシンポジウム、2日目は40歳前後を中心とした起業家やビジネスマンらによる旧山口邸のリノベーション案についてのミニセッション、3日目は建築系の学生らにも人気だった限定150人に向けたオープンハウス&セミナーなどを行った。
プロジェクトのキーマンである、吉川稔・東邦レオ社長兼NI-WA社長は山口邸との出合いについて、「ランニングをしていて、緑に囲まれ、たたずまいも素敵でいいなと思っていつも見ていた。借り手を探していることを後で知り、『絶対に残したい』『古き良きものや誰かが作り上げたものをさらに進化させることで価値を高めたい』と考えた」という。活用方法や事業化などについては構想段階だが、「住まいというよりは、さまざまなビジネスマンやクリエイターが集まる仕事場やサロンとする方向で検討していきたい。私自身、東邦レオ、NI-WA、そして、東邦レオの子会社のイノベーションの社長も兼務しており、ものすごいスピードで仕事をしている。ゆっくり考えるというより、落ち着いて考えたいときに、庭があり、中と外をつなぐインナーテラス、あるいは縁側ともいえる場所があるのもいいと感じた。建物の中と外、右脳と左脳がいったりきたりしながら仕事をしたり遊んだりすることで、いいアイデアが生まれたりすると思う。肉体だけでなく、健康的な精神性でいられるようにもしたい。特にこれからの日本では、技術力や堅実な財務などを持っている古い企業が、面白いアイデアを持った人々や新しい技術を使いこなせる人とつながることで、クリエイティブに進化し、グローバルにチャレンジできる新しいベンチャーになれるはずだと信じている。そういった、いい仕事、いい出会いの場を作ってみたい」と語る。
初日のシンポジウムでは“シェアと「ソト活用」に見るワークスタイルの新たな可能性~不動産価値向上のケーススタディ~”をテーマに、三井物産出身で寺田倉庫の岩崎春夫・常務兼最高執行責任者(COO)と、トランジットジェネラルオフィス子会社でシェアオフィスを展開するリアルゲイトの岩本裕・社長が登壇。吉川社長がファシリテーターを務めた。
READ MORE 1 / 1 価値を上げる“あえて”のブランディング
その中で岩崎COOは、「寺田倉庫は創業65年のベンチャー企業だ。社員もやっていることも変わっている。個人から預かるワインセラーや、文化庁と連携しアート作品の補完やギャラリー、工房などを集めた『テラダアートコンプレックス』、4200色もの顔料を扱うショップ『ピグモン』、建築模型を建築家や事務所から預かり展示する有料ミュージアムや制作・修復工房を備える『建築倉庫』などを展開している。アートホールやアートギャラリーとして定期的に展示会ができるスペースも提供している」という。かつては業務用の倉庫業だったが、最近は個人向けや、期間限定などのイベント的な要素も増えている。「BtoBの倉庫業では似たような業種がたくさんあり価格が自分で決められないし、安ければ安い方がいいということになる。そういう仕事はやめてBtoCにして、6年前からがらっと業態を変え、天王洲の島のブランディングをしていく付加価値提供型の会社になった」という。さらにスペース活用については、「倉庫はあえて平屋にしている。一般的な企業は容積率400%を600%にして家賃で稼ぐところも多いが、われわれはあえて100%にとめて4倍の家賃を取れる価値あるものを提供する」と断言。天王洲の周辺オフィスの平均賃料は月坪1万円だが、ワインセラーは月坪5万円ながらも多くのオーナーが利用しているという。寺田倉庫はリノベーションやリブランディングの成功事例と言えるだろう。
一方、「主に東京都心部で30棟ほど一棟借りでシェアオフィスなどを展開している」という岩本社長は、シェアオフィスの造り方についても、「ラウンジを大きく取ったりギャラリーを作るなど、無駄を作る。すると、そこが良いと入居してくれる人がいる。賃料を生まないところで価値を上げることで、他と差別化できる」と話す。また、クライアント3000社のうち、2年間同じ部屋を借り続けている人は5割以下で、しかも、入居待ちのウエイティングリストがかなりあるという。「大きくなる会社や潰れる会社もある。今は本当にいろいろ『動く』時代。動くことを前提とした不動産業だ」と続ける。さらに、「重要なのは、審査をした人しか入れないという点。男女比率や見た目、服装なども見る。デザインはそこで決まる」と言い、ブランディングや理想のコミュニティー作りにつなげていると明かした。また、「5年後のことは考えない。考えるのはせいぜい2~3年先のことまで。トランジットとは『乗り換える』ことであり、時代やトレンドによってアイデアや事業もどんどん乗り換えていきたい」と変化対応力の高さを披露した。
1吉川社長は、NI-WAの事業内容について、「デベロッパーから受託して緑化事業を手掛けることに加え、自ら空間やプロジェクトをプランしていく会社としてNI-WAを作った。ガーデンというよりは、庭園、禅に近いイメージをしている」と説明。今回のテーマでもある不動産価値を高めるためには、「グリーンインフラやコミュニティー形成、ストーリー作りなどが有効だと考えている。今後、働き方改革の中で、オフィスや働き方自体は自らイノベーションできる範疇は出尽くしたと思う。今後は、私と違うものとどう掛け合わすかが重要だ。ホワイトカラーでもブルーカラーでも、左脳だけでも右脳だけでもなく、全部を融合する人たちが日本から出てくると期待している。そういう人たちをグリーンカラーとして提案していきたい」とビジョンを語った。