代官山 蔦屋書店コンシェルジュのおすすめを紹介する本連載2回目は、“捨てる”をテーマにした2冊について。1冊は、物を片付けたい人たちに贈るエッセー集「片付けたい」(河出書房新社:1600円)。もう一冊は、「片付けたい」とは対照的に、どうしても捨てられないTシャツ70枚を語る70人のエピソードを集めた都築響一の「捨てられないTシャツ」(筑摩書房:2000円)だ。文学担当の間室道子コンシェルジュは、「捨てられないTシャツ」の5月刊行、「片付けたい」の6月刊行に偶然の符合を感じ、2冊をチョイス。
「片づけたい」(1600円)内澤旬子、佐野洋子、沢野ひとし、ジェーン・スー 、柴田元幸、松浦弥太郎 著 河出書房新社
「片づけたい」P106-107から
掃除や収納の本というと、これまでは実用書が主流だったが、「片付けたい」は、掃除嫌い、掃除好き、捨てがたいもの、しまっている奇妙なものなどについてのアンソロジーだ。阿川佐和子、澁澤龍彦、谷崎潤一郎、松浦弥太郎、向田邦子ら新旧著名人の32編がそろう。
「小説家の川上未映子さんは、いろいろな掃除がある中で特にトイレ掃除が好きだと書いています。白の陶器でできた便器は、掃除の目指す形がはっきりしています。川上さんは、それを“『トイレのイデア』がくっきりしていて気持ちよい”と表現しているんですね。読者は、トイレ掃除のノウハウよりも、この言葉にしびれて俄然便器磨きをしたくなるのではないでしょうか」。本連載編集担当も、一読して思わず笑ってしまったのは中高年向けエッセーで人気の東海林さだおによるエピソード。「東海林さんは、ルンバを買ったのですが、上司が入社したばかりの部下を信用できないようにルンバを信用できないんです(笑)。仕事をするふりをしながらルンバを監視したり、後をついて歩いて、時々大きなゴミを置いてみたりして試練を与えます」。まるで部下との毎日をつづった日記のような筆致が微笑ましい。
エッセーの合間に片付けにまつわるコラムが差し込まれていることも本書の特徴の一つだ。たわしの豆知識や自分の掃除タイプがわかる“片づけ・お掃除タイプ診断”など、実用的な情報や箸休め的なコーナーも収録されている。「片付けには騒動がつきもの、人生がかかっています。何の葛藤もなく静かに進む片付けってちょっと寂しいですよね。どう片付けたらいいかなと我が身我が部屋を振り返ることができる一冊です」。
READ MORE 1 / 1 捨てられないモノにこそ人生が詰まっている?
「捨てられないTシャツ」(2000円)都築響一 編 筑摩書房
「捨てられないTシャツ」P40-41から
「捨てられないTシャツ」は、もともと編者の都築響一のメールマガジンに毎週連載されていた記事をまとめた1冊だ。都築は、“最もアンダーなところから最も純粋なものが生まれてくるのはなぜ?”というテーマのもと、ライター・写真家・編集者として活動している。
本書は、自慢したくなるTシャツや高価なTシャツではなく、文字通り最もアンダーな存在である捨てられないTシャツ70枚にまつわる有名無名70人のエピソード集だ。「Tシャツの持ち主のクレジットは、年齢・性別・職業・出身地のみですが、あの人では?というエピソードがけっこうあります。でも、著名人探しはナンセンスで、見るべきものはTシャツなんです」。
野球チームのために作った自主制作のTシャツ、「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「クロエ(CHLOE)」のようなブランドTシャツ、漫画家の河井克夫が手書きしたTシャツ、キャラものなど十人十色のセレクションだ。「ニューヨークのウクライナ人街で売っていたパチもんのスヌーピーTシャツまで登場するんです(笑)。わたしが心打たれたのは『タケオ キクチ(TAKEO KIKUCHI)』のTシャツについてのエッセーです。他のどの1枚でもなく、この1枚だからこそ映える劇的なエピソード。どの一節も人生があってたまたまTシャツを買ったのではなく、Tシャツが人生を連れてきたのだと感じさせます。捨てられないTシャツ1枚持てない人生ってなんなのよって言いたくなるようなエッセーです」。
次回は、7月27日。打って変わって、代官山 蔦屋書店が一目置く雑貨ブランドをピックアップ。新幹線や飛行機のパーツを作る工場が生み出す雑貨とは?
今回のコンシェルジュ:間室道子
代官山 蔦屋書店勤務。雑誌やTVなど、さまざまなメディアでおススメ本を紹介する「元祖カリスマ書店員」。書評家としても活動中で、現在「プレシャス(Precious)」「婦人画報」など連載多数。文庫解説に「タイニーストーリーズ」(山田詠美 / 文春文庫)、「母性」(湊かなえ / 新潮文庫)、「蛇行する月」(桜木紫乃 / 双葉文庫)などがある。