ファッション

“日本の背広”をもう一度

 東京都議会選挙が7月2日に実施されましたが、その数日前、目に留まった新聞記事がありました。6月29日付の東京新聞・こちら特報部に掲載された、稲田朋美・防衛相のファッションに映る性格を探るという企画。俎上に載せられた稲田防衛相は、ここ数カ月、失言のオンパレード。デザイナーのドン小西氏やハリウッド大学院大学の佐藤綾子教授がその理由を稲田防衛相のファッションから読み解こうとしたものです。

 ドン小西氏は、「彼女は永田町という男社会で、着飾ることで女性としての自分をアピールしてきた。従来の強い女性議員のイメージと一線を画しているつもりだと思う。ただ、決定的な欠点は、それが外にどう映っているか、またTPOを理解していないこと」とバッサリ。佐藤教授も「これまで、どれだけ失言しても辞任といった処分もなく、許されてきた。安倍首相をはじめとして、誰かがいつもかばい、けじめがつかず、甘ったれた格好や失言を繰り返してきた」と辛辣です。

 実は、4月27日付の同欄では、同様の企画で今村雅弘・前復興相の“エヴァンゲリオン”柄のネクタイを取り上げ、服装と言動のかい離を指摘しています。この二つの記事を読んで感じたことは、両者とも少なからずファッションを人気取りのための道具と捉えているのではないかということです。稲田防衛相は地元である福井産の黒い網タイツ、今村前復興相は被災地福島の企業から贈られたネクタイをトレードマークにしていました。それが、皮肉にも批判の矛先になってしまったように見えます。

 政治家がらみで思い出したのが雑誌「ペン(Pen)」の“1冊まるごとコム デ ギャルソン”(2012年2月15日号)に掲載されていた「コム デ ギャルソン・ オム ドゥ(COMME DES GARCONS HOMME DEUX)」の1987年の広告写真。“日本の背広”という単純明快なキャッチコピーとともに第二次世界大戦後に首相を務めた吉田茂のポートレートが大胆に添えられています。同誌には、「それまで広告をほとんど出していなかったコム デ ギャルソンが、87年にビジネススーツのライン『コム デ ギャルソン・オム ドゥ』を発表するとともに、さまざまな媒体に広告を掲載したことは一躍、業界の話題となった」「雑誌では吉田茂、志賀直哉、高橋是清をはじめとした、日本人でスーツをきちんと着こなしていた人物のポートレイトを大胆に構成した広告を掲載」とあります。

 公の場に立つ吉田茂の服装はシンプルなスーツでしたが、その姿には先の2人とは対照的に彼自身の美意識が感じられます。だからこそ日本を代表するファッションブランドが目を付けたのでしょう。後世、ファッションブランドの広告塔に起用されるような素敵な着こなしと実行力が評価される政治家が現れることを期待したいですね。

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