パリ・オートクチュール・コレクションが無事に終了しました。後半は連日、日本と同じくらいの35度をマークする暑さでした。無事に終了したと言ってもメゾンの方たちの私たちには見ない部分での苦労はたくさんあったはずです。とくに「メゾン マルジェラ “アーティザナル” デザインド バイ ジョン ガリアーノ(MAISON MARGIELA ARTISANAL DESIGNED BY JHON GALLIANO)」は、とても大変だったことでしょう。フランスの女性政治家、シモーヌ・ヴェイユ(Simone Veil)の葬儀に伴い、当初予定していたショー会場、アンヴァリッド(INVALIDES)から急きょ、オフィスに会場を変更したのですから。ちなみに、このシモーヌ・ヴェイユは、1927年にユダヤ系の建築家の娘に生まれ、アウシュビッツ収容所に収容されながらも生き延びた女性で、政治家になってからは妊娠中絶を合法化した、歴史的にも大きな業績を残した方なんです。
こういった急な変更は、メゾンにとって大変なことは想像に難くないですが、数日寝ずに作業に取り組んだスタッフもいたとのこと。でも会場に行くと、そんなことはまったく感じさせない、優雅な時間が流れていました。クリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノはショー後のフィナーレに登場することはありませんが、今回の会場はいつもデザインをしているオフィスということもあり、ガリアーノがひょっこりドアから出てこないかな、などと思いながら回りをきょろきょろ。結局のところ、見ることはできませんでしたが、来場者の席の後ろにガリアーノのアトリエを再現していて、それを見られたことは、なんだかお得な気分です。ガリアーノの美意識がそこにあるような空間は、イメージを膨らませてくれます。他にもヘアメイクの道具が置かれているコーナーもあり、モノ作りの背景を伝える演出がなされていました。
ショーは無事に終了し、皆が大きな拍手で称え、会場を後にしようとすると、白衣を着たアトリエの皆さんがすがすがしい表情で、アトリエから会場に降りる階段の踊り場にそろって立っていました。やりきったことが伝わってきたので、とても温かい空気に包まれていました。ショーの時間は数分間という短い時間ですが、それに費やす膨大な時間とエネルギーを想像すると、見る側も気が引き締まります。それを改めて感じたショーでした。
さらに面白かったショーでいえば、「ヴィクター & ロルフ(VIKTOR&ROLF)」でしょう。巨大な頭の着ぐるみを被ったモデルが続々と登場し、最初、来場者は訳がわからず頭の中は「?」に。4頭身くらいになってしまったモデルが次々とランウエイを歩いていきます(笑)。「頭の後ろがハゲている!笑」「これならモデルは誰でもよいのでは?」「顔に目がいって、服が全然頭に入ってこない」などといったコメントがちらほら聞こえて、なんだか面白い状態に。
そんなこんなで一通りランウエイを歩き終わったら、今後は、着ぐるみの頭を取った普通のかわいいモデルが、髪が若干乱れた状態で再度歩いてきました。「あ、普通にまた歩くのね(笑)」と。ではあの着ぐるみみたいな最初の登場はなんだったのか??SNSでの拡散を狙って??まだ理由は分かりませんが、インパクトのあったショーには間違いありありませんでした。真面目な顔をしていつも面白いことを仕掛けるウィットに富んだデザイナー・デュオなので、これもショーをより楽しいものにする演出なのかもしれません。
さらに面白い演出と言えば、日本人デザイナー、中里唯馬の「ユイマ ナカザト」も、他とは異なる見せ方で独自のスタイルを貫いていました。彼は、オートクチュール協会の正会員ではないですが、3シーズン、ゲストデザイナーとしてパリでショーを発表しているんです。まず、最初に映像を流し、彼の考える未来のオートクチュールを説明していきます。小さなチップ状の生地がそれぞれの体形に合わせて構成(プログラミング)され、体にフィットする服が生み出せるという考え方で、デジタルを駆使したオートクチュールを提案しています。映像の後に実際の服を見せるプレゼンテーションで、現地のジャーナリストも興味津々で見ていました。オートクチュールにこういった新風を吹き込んでいる中里さんの今後が楽しみです。
そしてオートクチュールの最終日は、ジュエリーの新作発表があります。これまでのショーで顧客が服を選んだあと、最終日にそれに合わせるジュエリーを選ぶということです。多くのジュエラーがヴァンドーム広場に直営店を構えており、この日は新作ジュエリーを取材するべく、ヴァンドーム広場を一日中ウロウロ。「これは1億2000万円です」「これは2億円を超えます」といった会話が普通になされていることに、若干の気おくれ感は否めません(笑)。写真は「ブシュロン(BOUCHERON)」の2億円を超えるネックレスです。どこかの国の王女様あたりが購入なさるんでしょうか……。なかなか目にすることのないジュエリーは目の保養になりました。
あなたの知らないオートクチュールの世界があったでしょうか?夢のあるオートクチュールは、美しい都、パリがぴったりだなあと思いながら、しみじみヴァンドーム広場を眺めるのでした。