ファッション

伊高級シャツ地メーカーのトップが語る “サステイナビリティー”に本腰を入れる理由

 7月13日まで開催された2018-19年秋冬向けの素材見本市「ミラノ・ウニカ(MILANO UNICA)」では、サステイナビリティーを意識した素材の打ち出しが目立った。「トーマス・メイソン(Thomas Mason)」や「アルビニ(ALBINI)」「アルビエイト(ALBIATE 1830)」などを展開する高級シャツ地メーカーのアルビニもその一つだ。アルビニは南アフリカのユーカリの木から採取した繊維を使用した「マイクロテンセル」や、オーガニックコットンを使用した「エコトーン」を発表した。伊企業の間で浸透しつつあるサステイナビリティーへの意識やその背景にあるマーケットの流れについてシルビオ・アルビニ(Silvio Albini)CEO(以下、シルビオCEO)に話を聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):伊有力生地メーカーも多くがサステイナビリティーを意識した素材を打ち出していた。アルビニも「マイクロテンセル」の発表や、環境に配慮した生産工程をパネルで展示するなど力を入れている印象だ。

シルビオCEO:サステイナビリティー関連には多く投資している。アルビニのような生産工程が複雑な企業にとっては、何をサステイナブルとするかは難しい。ただ単にオーガニックコットンやテンセルなど自然由来の素材を使えばいいという話ではない。環境への負荷を減らすという意味では生産工程で必要な電力や水量を減らすこともそうだし、化学物質を人体に影響がないものに変えていく必要がある。しかもそれも環境に負荷がかからないものでなければならない。この点については、アルビニは段階的であるが確実に進歩していると言える。ただしサステイナビリティーは一飛びに成果が得られるものではなく、継続的な努力が必要。アルビニはテンセルやオーガニックコットンなど原料についても多く投資しているが、生産工程全体にも気を配っている。

WWD:アルビニのサステイナビリティーで重要な点は?

シルビオCEO:2つある。1つはトレーサビリティー。(※編集部注:その製品がどのように生産されたのかが追跡=トレースできることを指す。)全ての生地について、どこで生産されたどういう原料を使用しているか、いつどこで紡績、染色、織り、仕上げのプロセスを経ているかがわかるようになっている。我々は全てのサプライチェーンをコントロールすることでトレーサビリティーを可能にしている。もう1点はラボラトリーを併設していること。ほぼ全ての行程について社内にラボがあり、糸、染色、仕上げなどすべて審査を経たものを使用している。トレーサビリティーとラボの両輪で回していくことが重要だ。

WWD:その分コストも多くかかる。

シルビオCEO:もちろんだ。サステイナビリティーはフリーではない。巨額の投資をしなければいけないし、そこに関わる人々も多く必要だ。だが長い目で見れば会社として必要な投資だ。これがなければ生き残っていけないだろう。それにもっと長期的な目で見れば、電力や水量の削減はコストダウンにもつながる。

WWD:取引先からのサステイナビリティーを求める声も増えているのか?

シルビオCEO:長い時間がかかってはいるが、増えていると感じる。少なくともビッグメゾンや大手の小売店はサステイナビリティーへの関心が高い。中にはセールストークの一つとしてしか考えていない企業もあるが、多くの企業は真剣に考えている。今後イタリアで生産し、世界の優良顧客に自社製品を販売していくためには、この点について真剣に考えていかなければ生き残ることはできない。消費者の環境への意識も高まっている。特に高価格帯の商品については使用している原料からプロセスまでの背景を気にする顧客が多い。ビッグメゾンや大手の小売店はこうした消費者の姿勢に後押しされる形で各商品の生産背景についての意識を高めている。特にイタリアでは若い消費者にそのような傾向が強いと感じる。

WWD:消費者がサステイナビリティー以外に求めているものは?

シルビオCEO:デザインや色だけでなく、イノベーションが感じられるものを求めている。「マイクロテンセル」に代表される新しいファイバーやアイロンがしやすい生地など機能性の高い生地の開発に我々も力を入れている。

WWD:背景にどのようなマーケットの状況があるか?

シルビオCEO:コットンとシャツ地の分野に関して言うと、競合からのプレッシャーを強く感じている。特にカジュアルシャツに関しては、ニットが台頭しており苦しい状況だ。また、綿花の価格の高騰も私たちにとっては向かい風だ。だがこうした原料の高騰をそのまま我々の販売価格に上乗せすることは難しい。全体的には厳しい状況だが16年は実績をキープした。好調要因の一つがウィメンズ向けの「アルビニ ドンナ(ALBINI DONNA)」。16年春夏から17年春夏で約2倍に伸びた。ブラウスだけでなく、ドレスやガウン、スカートなどさまざまなアイテムに使用されている。またメンズをメーンに展開しているオーダーメードのシャツも非常に好調だ。昨今は自分のためだけに作られた服への人気が高い。先ほど話したイノベーションも含め、これらがシャツだけでは難しい時代への私たちの答えだ。常に新しいものを提案し、顧客もそれを理解している。一方で新規客を開拓することも重要だ。そうすることで困難な状況でも販売量をキープできている。

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