東京国立近代美術館では10月29日まで、「日本の家、1945年以降の建築と暮年以降の建築と暮らし」展を開催しています。ここでは建築家56組が建てた日本の戸建住宅75軒にフォーカスを当て、模型や手書き図面、写真、映像などを交えて13のテーマごとに住宅を紹介します。建築家といっても安藤忠雄や隈研吾、黒川紀章といった名だたる建築家から積水化学工業や良品計画といった馴染み深い企業までさまざま。とにかく幅広いジャンルの住宅を時系列ではなく、独自のテーマに沿って分類をした展示会になっています。
なぜ、住宅だけを取り上げるのか。東京国立近代美術館の保坂健二朗・主任研究員いわく、「同展はもともと日本イタリア国交150周年を記念したイタリアでの展示でした。日本の建築を紹介するなら、まずは誰にでも馴染みのある住宅だと思った」とのことでした。18日に行われた記者発表会で、「『日本の家』というのは英訳すると『Home』ではなく『House』なのか?」との質問に、「仕切りで区切るのが『House』だが、今回の展示では暮らしを表す『Home』を含めて両方を紹介している。両方を合わせて『家』と呼べる日本語は素晴らしい」と答えていたのが非常に印象的でした。
さて、展示されている13のテーマですが、見終わって直感的に「テーマ分けがファッションっぽい!」と感じました。ともに生活に欠かせない“衣食住”を構成する要素なのだから当然なのかもしれません。今回の13テーマを主観でざっくりグルーピングしてみると、3つのキーワードが思いつきました。“時代に沿ったテーマ”と“暮らしに沿ったテーマ”“芸術性の高いテーマ”です。ファッション的に言えば“トレンド”“リアルクローズ”“アートピース”でしょうか。
“時代に沿ったテーマ”には「プロトタイプと大量生産」「閉鎖から開放へ」「すきまの再構築」「脱市場経済」といったテーマが当てはまります。高度経済成長にともなって大量生産が普及したり、地方に量産されたニュータウンへの反動として若者が都心回帰したり、世の中の流れを汲み取った住居のあり方をまとめたものです。「プロトタイプと大量生産」は、アパレル業界でもまさに「ユニクロ」が90年代以降に作り出したトレンドだなと思います。
対照的に“暮らしに沿ったテーマ”はトレンドに流されることなく、その土地古来の暮らし方や利便性を最優先した住居を意味します。具体的には「町家:まちをつくる家」「家族のあり方」「新しい土着:暮らしのエコロジー」などがあります。伝統技法やその土地の風土に合わせたものづくりは、ファッション業界にもたくさん存在するテーマですよね。
最後の“芸術性の高いテーマ”は一番分かりやすいでしょう。ファッションも建築も、生活に欠かせない要素でありながらも芸術的な一面をあわせ持っています。同展でも「日本的なるもの」「土のようなコンクリート」「住宅は芸術である」「遊戯性」「感覚的な空間」など、芸術性や抽象性を表現したテーマがたくさんありました。会場で一番目立っていた原寸大の「斎藤助教授の家」も、何気ない木造平屋ながらも小高い丘の上のズレた基礎の上に建っている、なんとも芸術的な住宅。でも、決して住みにくいわけではなく、その不自然さが空間に見事な開放感を生み出しています。芸術性や奇抜さがありながら、決して生活の不自由にはならないモノ作りはファッションにおいても大切な考え方だと思います。奇抜すぎて着ることができない洋服は、なかなかビジネスにはなりませんよね。
中にはファッションデザイナーの津村耕祐が手掛けた“ファイナルホーム”という着ることができる住宅(!)までありました。「新聞紙をポケットに入れれば防寒着になり、食料を詰めれば避難着になる。究極の家を目指した」というように、洋服も住宅も人の生活を守る枠組みであることに違いはありません。でも、ファッションは季節ごと衣替えをするのに比べて、住宅は基本的には生涯で数軒しか住まないもの。そういった建築とファッションの似ているところ、異なるところを改めて考えるいい機会になりました。そんな小難しいことは考えずに(笑)、住宅の多様性を学ぶためだけにでも、是非訪れたい展示だと思います。