イラストレーターたなかみさきが描くイラストはどこか懐かしく、ちょっとえっちでキュンとする。そんな作風がインスタグラムで大きな反響を呼び、現在インスタグラムのフォロワーは20万人を超える。「ケイスケカンダ(KEISUKE KANDA)」2017-18年秋冬コレクションともコラボしたことでも知られる彼女に、よく打ち合わせをしたという吉祥寺の喫茶店で話を聞いた。
WWD:絵を描きたいと思ったのはいつ頃からですか?
たなか:本当に小さい頃です。ずっと絵が好きだったので、それしかあまり遊びがなかったですね。みんなで何かやるのがすごく下手で。ゲームとか運動とか。集団でやる遊びをそういえばしていなかったなというくらい絵ばかり描いていました。その頃から漫画家とか、絵に携わる仕事がしたいと漠然と思っていました。
WWD:ちょっとえっちな絵を描き始めたきっかけは何ですか?
たなか:さかのぼると幼少期なんですけど、小学生の時くらいから女の人のくくりに入りたくないという思いが強くて。女の人が性的に好きというわけではないんですが、クラスの集合写真とか、男の子と女の子の間にいたりして、性を客観的に見ていた部分がありますね。そうやって性的なものに興味を持ち始めたんだと思います。
WWD:大学では版画を学んでいたんですよね?今とは全く異なる方向性に思えるのですが?
たなか:その頃は丸尾末広さんや楳図かずおさんみたいな耽美な感じを目指してエログロな絵をよく描いていました。そのジャンルは狭い業界では常に売れ続けていて、ずっと需要はあるのでその方向で行こうかという雰囲気だったんですけど、それだけじゃつまらないなと思って。自発的にイラストの方面に絵を変えていった時期があって、それがちょうどインスタグラムを始めたくらいの時期でした。
WWD:それは何かをみて憧れとかではなく、自分自身で?
たなか:きっかけはファッション雑誌の挿絵とかに載りたいなと思ったからです。それで、インスタグラムに投稿する絵はこういう方向で行こうと。大学卒業の頃に表参道の「マンフッド(MANHOOD)」という美容室で初めてイラストレーターとして個展をやらせていただきました。その時にイラストには興味はないけど感度のいい人たちが集まる場所で、こういう人たちにも私の絵が受け入れてもらえるんだと思って。それで、このままフリーとしていけるんじゃないかと思って、今に至ります。
WWD:でも、卒業してフリーでやっていくというのは結構思い切った決断ですね。
たなか:私の周りでフリーとして働く決断をした人はあまりいないんですけど、個人的にそんな思い切ったとは思っていなくて。私は絵を描き続けることができれば、それで満足なので。商売に結びつける方が本当はすごく苦手なんですよね。大学卒業してアルバイトをしながら、イラストを描いて、インスタグラムにアップしていました。インスタグラムを更新していれば、さも活動しているかのように見えるので(笑)。なんのお金にもならないんですけど、インスタグラムの反応が励みになったり、そこから拡散できて仕事の依頼を頂いたり、すごくありがたかったですね。
WWD:描いてる絵はノンフィクションなんですか?
たなか:フィクションとノンフィクションを混ぜて描いてます。頭の中に青春のきらめきゾーンみたいなのがあって、そこに記憶をストックしてるんです。そこから過去の記憶を出したり、新しい記憶を更新したり。全部ノンフィクションだと、すごく個人的なものになってしまうので。
WWD:登場する女の子はたなかさん自身?
たなか:そういうわけではなくて、みんなが知っているあの子というニュアンスで描いてます。なので結構女の子の顔に特徴なくていつも大体同じ顔なんですよね。そっちの方が思い入れられやすいじゃないですか。女の子は表情、身体、髪型は男の人よりものすごくバリエーションありますね。でもみんな愛嬌があるように描いてます。美人でも愛嬌がある子にしていけたらなと。男の子については完全に私のタイプです(笑)。細くて喉仏が出ててテクノカットみたいなタイプがただただ好きで。
WWD:どのくらいのペースで描いているんですか?
たなか:1日2〜3枚は描いてると思います。昼から飲んじゃったりすると全然だめなんですけど(笑)。でも、飲むのは好きで、飲んだ時のハプニングは結構作品に生きていると思います。
WWD:ハプニングというと?
たなか:電車に乗ってても「なんかエロいこと起きないかなあ」とかって考えてます(笑)。最近、恋人と一緒にいる時の決め台詞があって。「書くよ!そういうことすると書くからね!」って(笑)
WWD:たなかさんにしか言えない台詞ですね(笑)。
たなか:でも私たぶんちょっとのおかずで10杯くらいご飯食べれる感じで、ちょっと何かあればすごく絵がかけますね(笑)。
WWD:想像力というか妄想力が豊富なんですね。
たなか:聞いた話やフレーズ、読んだもの、写真で見たものをインプットして、全部をちょうどいいところに当て込んでいます。
WWD:客観的なんですね。
たなか:本当にそう思います。「客観的に見ていくことを大事にしていこう」と、神田(恵介「ケイスケカンダ」デザイナー)さんともお話しました。
WWD:そもそも、神田さんとのコラボレーションはどういうきっかけで?
たなか:ミキリハッシンの山口壮大さんから、神田さんとつないでいいかと連絡が来たことがきっかけです。神田さんがトートバッグとTシャツを出したいんだということで。神田さんは、ファンの女の子たちから「最近やばいイラストレーターいますよ」って私のことを教えてもらったそうで。それで実績も何もない私を起用してくださいました。
WWD:1番最初のコレボレーションの時はまだ熊本に?
たなか:そうです。その時は既存の絵を使ったものとあとは書き下ろしたものもちょこっとぐらいだったんですけど、第2弾として「ケイスケカンダ」2017-18年秋冬コレクションのイラストは、東京に来てからお話をいただきました。第1弾のコラボレーションのお礼にということで、お洋服のサンプルをくださったりして、さらにお礼にと私が神田さんに絵を描いて送ったんです。それで神田さんが「これすごくいいね、この発想はなかったわあ」って言ってくださって。それでまたやろうよという話になりました。
WWD:それで、この場所で打ち合わせをしたんですね。
たなか:そうです。これがその時のメモです。言葉遊びみたいな感じで作品を作りました。サロペットだったらエプロンかな、とか。スニーカーはたくさんリボンがついているシリーズの絵は「ほどいてる方が好きって言われたけど、結んでるのが好き」という文章も一緒に考えました。卓球ジャージーとかは、「ジャージーだったら超卓球できるじゃん!」みたいなところから、名前が“温泉卓球専用ジャージ”になったり(笑)。今回のコラボレーションはギャグの要素も入っていると思います。
WWD:言葉遊びがそのまま絵になったんですね。卓球好きなんですか?
たなか:卓球ってスポーツなのに全然充実した感じがないというか、温泉地とかにあったり、ダサい感じが好きなんですよね。
WWD:卓球って、どこか昔風なところがありますよね。たなかさんの絵も昔っぽいってよく言われませんか?
たなか:そうですね、よく言われます。でも、昔風を目指して描いているわけじゃなくて。それこそ大瀧詠一さんや松本隆さん、荒井由実さんとかの歌詞の世界にいつも惹かれる部分があります。私の中で作り上げていく女性像が、松本隆さんの詞に似ていて、一番松本隆さんに影響を受けたなあと。松本隆さんの描く女性像って強いんですよね。儚いし弱そうなんだけど、すごいこと言うなこの子みたいなところがあるんですよね。この子にさわるとどうなっちゃうんだろうとか、自分のものにならないんだろうなとか、結構女性優位に描いてるところはありますね。
WWD:お洋服も結構好きなんですか?
たなか:好きですね。骨董通りとかよく行きます。古着も着るし、最近はドメスティックブランドも好きです。
WWD:最近買ったものでお気に入りのものは?
たなか:今着ている「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のワンピースとか、「トーガ(TOGA)」の靴とか。「マメ(MAME)」のブラウスも買いましたね。結構買ってるな、私(笑)。
WWD:洋服以外にも何かありますか?
たなか:実は今日持って来ていて、昔のエロ本なんですけど(笑)。
WWD:すごい!どこで手に入れるんですか?
たなか:神保町にエロ本しか売ってない古本屋さんがあって。この「火を噴く女」とか、見つけた時爆笑しましたからね。神保町の古本屋はたいていカバーが付いてて中が見られないので、タイトルで買ったりします。おじいちゃん店主に持って行って。ちゃんと領収書くださいってお願いして(笑)。
WWD:エロ本を買い始めたのは最近?
たなか:そうですね。東京に来てからです。熊本に住んでる時からちょこちょこ集めてたりもしていたんですけど。
WWD:エロ本は今どのくらい収集されてるんですか?
たなか:いや、そんなには。本棚1段くらいですね。
WWD:300冊くらいあるのかと(笑)。
たなか:そしたら私本屋開けますね(笑)。
WWD:やって欲しいです。エロ本屋さん(笑)。
WWD:もともと雑誌の挿絵を描きたいとのことでしたが、最近はどういった仕事を?
たなか:雑誌の挿絵の仕事も増えましたし、LINEのウェブ媒体「トス(TOSS!)」でも連載をさせていただいています。あとは、女性向けウェブマガジン「シーズ(she’s)」で今度モデルのおみゆさん(小谷実由)と対談する連載も始まって、インスタライブで配信をします。最近は思っていることを喋ったり、コラムを書いたりするような仕事も増えてきています。なおさら、もっとインスピレーションというか、積極的に面白いことやエロいことを体験せねばと思います(笑)。
WWD:今後、やってみたい仕事とかあるんですか?
たなか:それこそ、ファッションブランドとコラボとかやっていきたいですね。コラボにしてもモノ作りにしても、どちらも得するようなことをしていきたいと思っています。
WWD:絵だけじゃなくて、話したりとか書いたりする仕事もありですか?
たなか:そうですね。それもどう転ぶかやってみなきゃわからないですけどね。できればイラストだけでやっていきたいんですけど、おしゃれとかかわいいだけじゃないのが面白いなと思っていて、それを伝えるのに「こういう人が書いているんですよ」っていうのを見せていくのも面白いなと思って。喋るのも嫌いじゃないので、喋ってみたい人がいたら喜んで、尻尾振って行きます(笑)。
WWD:喋りたい人とかたくさんいるんですか?
たなか:最近は会いたい人に会えてきているのでうれしいですね。実は、7月29日には渋谷直角さんとの対談もあって!「奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール」の映画化を記念して、渋谷のHMVでトークショーをするんです。緊張もするんですけど、出会ったことのない人と喋ったりする機会はすごくありがたいですね。