PROFILE:1964年、パリ生まれ。16歳でナイトクラブのダンサーのためのシューズ作りを決意する。ミュージックホールでの見習い、「シャネル」「イヴ・サンローラン」などでのインターン、ランドスケープデザインの仕事を経て、92年に「クリスチャン ルブタン」を設立し、パリに1号店をオープン。「ジャンポール・ゴルチエ」「クロエ」「イヴ・サンローラン」「ヴィクター&ロルフ」などのコレクションのシューズをデザインし、現在に至る
クリスチャン・ルブタンは、独特の世界観を持つ無類の努力家だ。靴を中心とするビジネスに、絶え間ない情熱を注いでいる。パリを拠点とする「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)」は年内、アイコンのレッドソールにちなんだ“ルージュ クリスチャン ルブタン リップ カラー”全38色を発売する。さらに、スパイクスタッズ、アニマルプリント、レッドといった象徴的要素を取り入れた注目のレザーグッズシリーズから、その要となる“パロマバッグ”がこの秋店頭に並ぶ予定だ。
クリスチャン・ルブタンはミニチュアがとても好きらしい。「小さな絵にはディテールが詰まっていて、見ていて飽きないんだ。父が大工だった影響で、デザイン性のある物が好きだった。小さくても大きな物のように素晴らしい発明や工夫を凝らすことができる」。
左:“ルージュ クリスチャン ルブタン リップ カラー” 右:ナパレザーの“エレクトラパンプス”(左)とカーフレザーの“パロマバッグ”
そんな彼のデザイン史上最小となるリップスティックがもうすぐデビューする。装飾品のような“ルージュ クリスチャン ルブタン リップ カラー”の希望小売価格は90ドル(約1万円)。アイテムとしては高額だ(日本では発売予定なし)。「チャームブレスレットのようにゴージャスなリップスティックや、ベルベットのカーテンからのぞくディタ・フォン・ティースの脚のようにブラックレザーのサイドパネルからドラマチックに伸びた肌色の持ち手のハンドバッグがあってもいいよね?」。スパイクを模した蓋が印象的なネイルポリッシュを引っ提げ「クリスチャン ルブタン ボーテ」が始動して1年。現在ビューティ事業は売り上げ全体の3%を占めるという。
一方、ハンドバッグは“再起動”する。今シーズン、オフィスやアトリエ、ブティックを構えるジャン=ジャック・ルソー通りにある19世紀のたたずまいを残すアーケード、ギャルリー・ヴェロ=ドダに新チームを発足。11月初旬、モデルチェンジしたハンドバッグが店頭にお目見えする。「純粋なパリ発のハンドバッグで、少し型破り」とルブタンは言う。
ハンドバッグに新解釈を吹き込むきっかけとなったのは昨年、カール・ラガーフェルド、川久保玲、フランク・ゲーリーらも名を連ねた「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」とのコラボだ。ルブタンはモノグラム・キャンバスをベースに、シグネチャーレッド、スパイクスタッズ、そしてつややかな質感を加えたショッピングトロリーとバッグをデザイン。シンボリックな要素を落とし込んだことがヒントになり“パロマバッグ”が生まれたという。「初コレクションに臨む気持ちで取り組んだ」と語る。
同ブランドにハンドバッグが登場したのは2005年。きっかけは彼の靴を引き立たせるイブニングバッグが欲しいという顧客の声だった。「何かを始めることと、それがどう運営されるかを見極めることが大事。そうすれば、次のステップへと心の準備もできる」とルブタン。これは、顧客のニーズに応えて新しくオープンするブティックにも当てはまる。出店する地域に詳しくなければ、数日散策し、食事をしながら靴のかかとが音を鳴らして行き交う通りを観察するという。「もしそこでレッドソールを見掛けなかったら、出店はしない」と断言する。
クリスチャン ルブタン社は婦人靴を柱とするプライベートカンパニーだ。現在、婦人靴は売上高全体の70%を占めている。アレクシス・ムーロ=クリスチャン ルブタン グループ最高執行責任者(COO)兼ゼネラルマネジャーによると、売り上げ全体の約7%を占めるハンドバッグと小物レザーグッズ事業は3年以内に15〜20%伸びる勢いで、今後一層注力するという。
[rel][item title="「クリスチャン ルブタン」のコスメ第1弾は、レッド・ソールをイメージしたネイルポリッシュ" href="https://www.wwdjapan.com/beauty/2014/07/24/00013068.html" img="https://www.wwdjapan.com/beauty/files/2014/07/24/140725-Louboutin1.jpg"][/rel]
[rel][item title="「クリスチャン ルブタン」のコスメ第2弾は、ペンダント式リップスティック" href="https://www.wwdjapan.com/beauty/2015/08/12/00017575.html" img="https://www.wwdjapan.com/beauty/files/2015/08/12/150812_cr_001.jpg"][/rel]
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紳士靴が急成長 売り上げの20%を占める
ルブタンはまた、4年前に参入した紳士靴の分野でも才覚を発揮している。08年、メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートで開催された「スーパーヒーロー展」のオープニングで、自らデザインしたスパイクスタッズをちりばめたブラックレザーローファーでレッドカーペットを歩いて注目を集めると、続いて英国のポップスター、ミーカがツアーで「ルブタン」の靴を履いて話題をさらった。新事業である紳士靴は急成長し、現在売り上げの20%を占める。ルブタンがインスタグラムで500万人近いフォロワーを持つソーシャルメディア界の人気者である事実はさておき、一連の行動力が、彼のビジネス推進力を支えるのに一役買った。
11年のパリ直営店オープン当初の顧客は、ポップシンガーやアスリートだった。とりわけNBAスターのコービー・ブライアントとトニー・パーカーは、人目を引くルブタン独特のハイカットシューズの愛用者だ。「スポーツマンも見方によってはショーガールなんだよ」とルブタンは笑う。華やかでエキゾチックなキャバレーのショーガールこそ、彼を成功に導いた婦人靴のミューズであることは有名だ。「女性の夢物語の具現化なんだ」。かなりエキセントリックでディテール重視、そしてユーモアにあふれるデザインが特徴だ。「ハッピーになりたい、ハッピーに見せたい女性のために作るんだ」。
昨年の靴の販売数は100万足超え
デザイナーのじっくりしたビジネス・アプローチに加え、ニッチなブランドイメージを保ちたい経営側の期待とは裏腹に、昨年の靴の販売数は100万足を超えるという。米国、欧州、日本での好調なビジネスを背景に「売上高は過去5年間で2ケタ台後半の伸び」とムロCOO。売り上げの70%を小売事業が、残りを卸売事業が占める同社は、これまで日本を含むアジアと中東地域のフランチャイズを直営店へと切り替え、ビジネスモデルの大きな転換を図った。「6年前の小売事業は5%だった」と振り返る。8月末には路面店とショップ・イン・ショップを合わせた直営店数は109店舗になる。15年は17店舗、16年は北米7店舗を含む18店舗のオープンを控え、直営店は全部で127店舗になる。また、世界中で250店舗に及ぶ卸売事業も進める。42%を占める北米が最大の販路で、40%の欧州と中東、18%の日本、アジア、アフリカと続く。「常に市場拡大のチャンスをうかがっている」とルブタンは言うが、熟考の末、取り下げることも多いという。
ルブタンはポルトガルとエジプトに別荘を持つ旅愛好家だ。エキゾチックな旅先は、彼のクリエイティビティーを間接的に刺激するという。トレンドを追うより、直感を頼りにする彼は、年に4回、エジプトやポルトガル、そしてフランスの田舎を訪れ、靴のコレクション用スケッチを描く。納得がいくまで直し、完璧に仕上げる。「一番重要な作業は多くの時間と集中力を要する。会社を起こそうとして始めたのではなく、靴をデザインしていたら会社ができた。大事なのは、成熟しないこと」と語る。「この職業が大好きだから、会社の売却も、自分が退くことも考えたことがない。わが道を行く。レッドソールは売っても、ソウル(魂)は売らないよ」とクスリと笑った。