カルト的人気を誇る韓国ブランド、謎に包まれた匿名デザイナーグループに迫る

　「アーダーエラー（ADER ERROR）」という韓国ブランドを知っているだろうか？韓国以外ではほとんど流通ルートがないにも関わらず、世界的にカルト的人気を誇るユニセックスブランドだ。同ブランドの4つのアカウントのインスタグラムのフォロワーは45万9000人を超え、設立からわずか3年だが、ユースカルチャーブームに後押しされ、売り上げは毎年倍増し、消化率は90％以上を誇るという。現在韓国語と英語に対応した公式ECサイトと、ソウル市内の梨泰院（イテウォン）にショールームを、弘大（ホンデ）に旗艦店を構える。

　「アーダーエラー」は、1人のデザイナーではなく、インテリアデザイン、ファッション、建築、金融など、さまざまな分野から集められた、約20人の匿名“クルー”が手掛けている。ソウル市内の漢南洞（ハンナムドン）にあるスタジオで、“クルー”のメンバー全員がそれぞれのバックグラウンドや視点から出したアイデアや意見を元に、シンプルだがどこか都会的な前衛さが光るブランドが作り出されている。謎に包まれたカルトブランドの全貌を、14年にブランドを立ち上げた4人の創設者のうちの1人（もちろん名前は非公開だ）に話を聞いた。

WWD:「アーダーエラー」を立ち上げた理由は？

「アーダーエラー」共同創設者（以下、ADER）：ブランドを立ち上げた1番の理由は、私たちが画像、服、動画などのコンテンツを作るのが単純に好きだったからです。でもファッションが1番好きなコンテンツでした。Tシャツ、スエット、フーディから作り始めました。簡単なアイテムから作り始めた理由は、“近くにあるけど見逃してしまうもの（But near missed things）”という、ブランドのスローガンからです。コンテンツとインスピレーションを身近なところから見つけたいという思いでこのスローガンを掲げました。

WWD：今ではどんなアイテムを手掛けているのか？

ADER：15年からアイテムを拡大し、コートやパンツ、シャツなどを取り扱い始めました。シグニチャーアイテムであるオーバーサイズTシャツ、タートルネック、肩幅の広めのコート、タックパンツには、毎回コレクションの最後にクルーのメンバーがその時の気分で決めたテーマをのせるんです。17年5月にはライフスタイルブランドデイ アフター デイ（DAY AFTER DAY、以下DAD）」もローンチして、キャンドルやスリッパ、石鹸なども販売しています。「DAD」はアパレルラインを凌ぐ勢いで売れていますね。

WWD：17年春夏コレクションのテーマは未来（future）とレトロ（retro）を掛け合わせた造語“FUTRO”だった。そのテーマはどう決めている？

ADER：私たちは“クルー”なので、1つこれと決めたコンセプトはありません。もし何か新しいコンセプトを決めるとなれば、全員から意見を集めてアイデアボードにまとめ、アイデアを固めます。私たちにとって、服とファッションは他の人とコミュニケーションをとる手段なんです。私たちのブランドはミニマルでモダンなシンプルさが根底にあります。どう私たちのデザインを見せるか、どうイメージを通してシンプルなセンスを伝えるかを考えながらスタイリングを作るので、雑多なスタイリングにフォーカスしています。私たちはこれを雑誌を作るように、“エディットプロセス”と呼んでいます。店舗のディスプレイも、6カ月ごとにテーマに沿って変えています。

WWD：「アーダーエラー」の顧客層と価格帯は？

ADER：モデルは女性を起用することが多いのですが、男性からの支持も厚く、男女比は半々です。顧客の70％が35歳未満で、アジアが40％、ヨーロッパが40％、残りの20％はアメリカからです。ブランドの価格帯は40〜300ドル（約4400〜3万3000円）です。

WWD：韓国は男女のジェンダー的役割が明確に分かれているというが、ユニセックスブランドである「アーダーエラー」の成功はある意味革命だ。この背景についてどう思うか？

ADER：ユニセックスな私たちの作る服は、普通の韓国のファッションに反するものだと思います。過去にはたくさんの人に不思議がられて、「なぜユニセックスにするの？」と尋ねられたこともありました。でも今はユニセックスやジェンダーレスはトレンドで、多くの人がそんなスタイリングを楽しんでいます。私たちがユニセックスのトレンドを最初に作ったと言うつもりは全くないし、タイミングが良かったのもありますが、私たちの服は人々の考え方を変え始めたと思っています。今では、私たちの活動がポジティブな影響を与えていることが見て取れますし、こうした変化が韓国ファッションをより強くしていくのだと感じます。

WWD：今後ブランドをどう拡大していく予定か？

ADER：現在韓国以外で「アーダーエラー」の取り扱いがある店舗は、パリとベルリンに2店舗を構えるトム・グレイハウンド（TOM GREYHOUND）と、ニューヨークのフィグ・コレクティブ（FIG COLLECTIVE）です。6月には10 コルソ コモ（10 CORSO COMO）でポップアップも開催しました。ですが、トゥモロー（TOMORROW LTD）と契約し、18年春夏シーズンからグローバルな流通経路を確保します。

　関係者は「アーダーエラー」の成功をどう見ているのだろうか。チェザーレ・プレヴェデロ（Cesare Prevedello）＝トゥモロー「アーダーエラー」担当者は、「デザインしている人物や製品ではなく、ブランドで勝負する。ブランドを人やモノによって定義しない、新しいタイプのファッションだ」とコメント。市場価値の非常に高いブランドだが、ブランド価値維持のため世界での取り扱い店舗は20店舗程度に収める予定のようだ。ポップアップも開催したシルビア・ベルトッチ（Silvia Bertocchi）10 コルソ コモバイヤーは、「『アーダーエラー』の服にはたくさんの魅力的なポイントがある。異なるスキル、パーソナリティーから生まれたさまざまな分野を跨ぐアイデアが気に入っている。直線的なパターンから生まれた『アーダーエラー』の服ははどこか不完全に感じる。これまでのブランドとは全く違うブランド」と述べた。