ナイジェリアのバッグブランド「ザシャドゥ(ZASHADU)」は、アフリカらしい大胆な色使いをモダンに昇華させたデザインが特徴だ。カウレザー、スネーク、ラビットファーなどを用いた表情豊かなバッグは、現地の伝統的な職人技で作られる。個性的なデザインが評判を呼び、インターネットを通じて欧米のバイヤーからの受注も増えているという。
デザイナーのザイナッブ・アシャドゥ(Zainab Ashadu)はナイジェリア生まれの35歳。10代からロンドンに移り住み、大学を卒業後、モデル、キュレーター、建築、ファッションなどの仕事をした後、帰国して2009年に「ザシャドゥ」を立ち上げた。
ナイジェリア最大の都市ラゴスにある彼女のショールーム兼オフィスを訪ねた。ナイジェリアは電力の供給が安定しておらず、室内は薄暗く、蒸し暑い。しばらく待つと、彼女が現れた。たちまち部屋の雰囲気が明るくなるのを感じた。扇風機のスイッチを入れると、「暑くてごめんなさい。会えて嬉しいわ!」とハグ。白い歯の笑顔がチャーミングな女性だ。
バッグデザイナーになった経緯を話してくれた。「8歳の頃からバッグが大好きでした。他の仕事をしている時もバッグへの愛だけが変わりませんでした。ロンドンのデザイナーのもとで2年間ファッションを学ぶうちに、故郷のナイジェリアのエナジーの中に身を置きたいという気持ちが抑えられなくなり、帰国してブランドを立ち上げる決断をしたのです」。
ナイジェリアはアフリカ最大の人口(約1億9000万人)を誇る大国だ。大西洋に面したラゴスにはおよそ1300万人が住み、経済と文化の中心地として賑わっている。「ザシャドゥ」を支持するのも、管理職やクリエーターなどビジネスの前線で働くキャリア女性たちだ。中心価格は4万~9万ナイラ(約1万2000~2万7000円)と、現地では決して安くないが、女性たちのおしゃれを欲する気持ちは年々高まっている。
にもかかわらず、先進国のナイジェリアに対するイメージは途上国に対するステレオタイプであることに、彼女は異議を唱える。「未だに世界で取り上げられるナイジェリアのニュースは、テロや病気などネガティブなものばかり。ナイジェリアの文化的な側面をもっと知ってもらいたいのです」。自分が作るバッグを通じて、世界の人々にナイジェリアのポジティブな姿を伝えたいという気持ちもある。
バッグはすべてナイジェリア北部の町、カノとソコトで作っている。この2つの町はレザー産地として100年以上の歴史がある。品質も高く、イタリアやスペインからも多くのバイヤーが買い付けに来るほどだ。
「ザシャドゥ」では昔からの伝統的な手法で皮をなめし、染色、成形まで一貫生産を行う。職人は現在7人。成形は最後の仕上げまでを1人の職人が担当し、1個のハンドバッグを作るのに1~2日かける。「担当を分けず、全ての工程を任すことで職人のプライドが保たれます。私がロンドンで学んだことを押し付けるのではなく、職人のやり方に合わせるのが大事なのです」。
しかし、ナイジェリア人は良く言えばおおらか、悪く言えばいい加減なところがあるので、相手に合わせながら仕事をするのは大変そうだ。「その通りです(笑)。相手に合わせ過ぎるとなめられてしまって、こちらのリクエストを聞いてもらえなくなってしまう。バランスを取って言うべきことはビシっと伝えています」。
ザイナッブが現地の職人との関係を大切にするのには理由がある。世界中で高まりを見せているサステイナビリティーに即したビジネスモデルが、ここで実現できると考えているからだ。
「現地で雇用を生み出すことで、古くから伝わってきた技術を活用し、環境に優しい染色法を守ることができます。レザーは違法な狩りで調達したものではない、出どころが追跡できるもののみを使っています。レザーの良さを味わってほしいので、デザインもできるだけシンプルに、実用的で長く使えるよう配慮します。私自身の性格もそうですが、力強くて潔いスタイルが好きなので、直線的なシェイプが『ザシャドゥ』のアイコンですね。ブランド設立当時からあるクラッチバッグのデザインは8年間変えていません。ベースのデザインを完璧に決めたら、過剰な装飾を施すのではなく、多様なレザーの組み合わせで変化をつける。コレクションによってはストーンを施すこともありますが、人工的な加工をせず、ナチュラルなプレシャスストーンを使っています」。
モノ作りは自身の目の届く範囲で完結させ、胸を張って世に送り出せる商品だけを作る。自然体でありながらも強い信念を持つ彼女の生き方がそのままバッグ作りに反映されているかのようだ。
「ザシャドゥ」のバッグの魅力は、大量生産では出せない丁寧な職人技、バイパー(毒蛇)×ラビットファーなどの贅沢な素材使い、そして紫やゴールド、緑といった鮮やかな色使いにある。ナイジェリアには“アンカラ”と呼ばれるさまざまな色柄のアフリカンファブリックがあり、マーケットには数えきれない程の種類が並ぶ。人々はそれを馴染みのテーラーに仕立ててもらう。こうした文化がナイジェリアの人々の色彩感覚を養っている。「ロンドンの知人の中にはナイジェリアの色使いはトゥマッチだと言う人もいます。でも私からするとロンドンの色使いは真面目過ぎてつまらない。ナイジェリアの伝統とロンドンのモダンな要素のミックスマッチを楽しみながらデザインしています。日常生活では自然からたくさんのインスピレーションをもらいます。自然の風景の中には同じ色はなく、無限の組み合わせがあるのです」。
彼女がバッグに込めた思いは、国内だけでなく、目新しいものを求める海外のファンをも引き付ける。「ブランドを立ち上げた当時は年間150個ほどの生産数でしたが、今は1000個を超えました。インターネットを通じて多くの人に知ってもらったおかげです。ナイジェリア以外でもニューヨーク、カリフォルニア、ロンドン、パリ、ダブリン、アイルランド、ヨハネスブルグのお店で取り扱うようになりました。ナイジェリアを拠点にすることで停電に悩まされたり、手に入る材料が限られたりと不便なこともありますが、制限のなかに身を置くことで自分のクリエイティビティが発揮されていると感じています」。
この夏にはラゴスに初の直営店をオープンした。着実にステップアップする彼女に、今後の夢を聞いた。「幸運なことにたくさんの夢を叶えてきましたが、これからはナイジェリアの職人の支援と、アフリカのモノ作りを世界の人にもっと知ってもらうことですね」。笑顔を絶やさなかったザイナッブが真剣な眼差しでハッキリと答えた。
彼女の力強いクリエイティビティによって、アフリカの新しい魅力が世界中に知れ渡る日も近いかもしれない。