今年もセプテンバー・イシュー、雑誌が、広告で一番分厚くなる9月号が発売された。一番広告の多い号は、当然、気合十分で作られただろうし、そこには各誌のメッセージが込められているだろう。
そこで米「WWD」は、アメリカの女性誌の9月号を総点検!業界人に、最新号についてイロイロ語ってもらった。
VOGUE
創刊125年の「ヴォーグ」は、ジェニファー・ローレンスを起用して4つの表紙を作成。うち1つは、アーティストのジョン・カリン(John Currin)が描き下ろした。駅のキオスクで売っているのは、ジェニファーが自由の女神と共演するバージョン。きっと「ヴォーグ」は、移民制限政策に賛同するコンサバな右派になんらかのメッセージを発信したいに違いない。広告業界のベテランは、「もしこれが、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領へのメッセージだとしたら、最高にカッコいい!」と賛辞を送る。一方で、「せっかく自由の女神の前で写真を撮ったんだから、もっとさまざまな人種の女優を起用しても良かったのでは?」との意見もある。
W
「ダブリュー」最新号は、ARにトライ。一部ページはスキャンするとアプリが起動する。業界人は、「ユニークなグラフィックだし、インタラクティブというのも面白い。『ダブリュー』とは、そういう媒体だ」と評価する。ただ、「面白いのは表紙だけ。あとは全部、これまでと一緒」という手厳しい意見も。
MARIE CLAIRE
「マリ・クレール」の表紙は、「ベスト・アクセサリー大賞」!エマはなぜか、巨大なボレロハットで登場だ。バッシングの嵐かと思いきや、「意図はわからないけれど、素晴らしい!」という賛辞の声が続出。
TOWN & COUNTRY
ファッションと旅、そしてレジャーを提案する「タウン & カントリー」の表紙を飾ったのは、キャリー・フィッシャー(Carrie Fisher)の娘で、デビー・レイノルズ(Debbie Reynolds)の孫という、俳優一家に生まれた“ハリウッド プリンセス”。映画「スター・ウォーズ」で母がレイア・オーガナ役を務めた経緯もあり、彼女も「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」に端役で出演。親の七光りをフル活用する、いわゆる「ええとこのお嬢サマ」だ。上流階級向けのコンサバ誌ゆえ、「完璧な人選!お母さんやおばあちゃんの面影をチラリと覗かせても良かった」との声もあれば、「ステレオタイプ極まりない。ガッカリの一言」との発言もあり、賛否両論。
ELLE
「エル」の表紙は、なんだかパッとしない。「古臭いし、つまんない。アリシアは、なんの感情もないまま読者を見つめているだけ」。「『スターを起用すれば、売れるかな?』って思ったくらいの表紙。コンセプトもアイデアも皆無。感情は全く湧かない」と一刀両断!
HARPER’S BAZAAR
「ハーパーズ バザー」の表紙は、R&Bシンガーの彼。トップモデルのアドリアナ・リマ(Adriana Lima)とイリーナ・シェイク(Irina Shayk)をはべらかした。「カリーヌ・ロワトフェルド(Carine Roitfeld. 同誌のグローバル・ファッション・ディレクター)のフレンチなセンスが炸裂している。衣装の『サンローラン(Saint Laurent)』もナイス」との声もあれば、「なんだか“ジェネリック(一般的)”。1年の中で一番“顔”になる表紙が男女ミックスなんて、ちょっと悲しい」という意見も。業界人もイロイロだ。単純に「黒リップが『アダムス・ファミリー(The Addams Family)』みたい」という、短絡的なコメントも。
GLAMOUR
「グラムール」については、ブレイク・ライブリーなんてどうでもいい。この雑誌について議論されるべきは、表紙の文字だ。ある関係者は、「ちょっとウルサイ。屋外でシューティングした写真はキレイなのに。でも、新しいチャレンジは歓迎したい。雑誌は、これまで通りじゃダメだから」とか「若々しく見える」と好意的。ところが別の業界人は、「文字要素が多くて窒息しそう。閉所恐怖症の読者にはツラい」との辛辣。
INSTYLE
「インスタイル」は、表紙に白人を起用しなかった数少ない雑誌の1つ。「なんだか5月号っぽい」とのコメントは気になるところだが放っておくとして、ご意見番たちが注目したのは、ここでも表紙いっぱいの文字の羅列。「こんなに文字がいっぱいの表紙は、今まで見たことない。でも、こんな雑誌があってもいい。『インスタイル』は、ファッションからホットケーキまでを特集する雑誌だから。文字で埋め尽くせば、ビジュアルのことなんて考えなくていいからラクチンかも」とのコメントがあった。
総評
セプテンバー・イシューのうち、有色人種を表紙に起用したのは、たった2誌だった。ある業界人は、「こんなに多様性が叫ばれる時代なのに。雑誌にも、白人以外の読者は大勢いるハズ。メディアは現状を自覚すべきだ」と話す。また、「結局、今年もセレブだった。セレブを起用すれば、セプテンバー・イシューは売れるのだろうか?私は、そうは思わない。雑誌は、かつてのようにコンセプチュアルではなくなった。リスクを覚悟で挑戦するのは、今しかないのに」という声も多い。
厳しいコメントが多かったが、彼らは総じて「それは、雑誌を愛しているからこそ。だからこそ、もっと面白くなると信じている」と話す。雑誌編集者にとっては耳の痛いコメントに向き合えば、新たな展望が開ける⁉かもしれない。