代官山 蔦屋書店コンシェルジュがオススメを紹介する本連載は、今回で第5回を数える。前回に引き続き、映像担当の吉川明利コンシェルジュが名作映画の見どころを教えてくれた。マフィア映画といえば誰もが思い浮かべる作品「ゴッドファーザー(The Godfather)」シリーズ。毎年100本以上の映画を観ている吉川コンシェルジュが、映画の世界にのめり込むきっかけになった1本でもある。百戦錬磨の吉川コンシェルジュが、何度も観直してしまうという「ゴッドファーザー」の魅力に迫る。
「ゴッドファーザー」は今年、日米公開45周年を迎えた。「月に1度、代官山 蔦屋書店のイベントスペースで『代官山 シネマトーク』というトークイベントを開催しています。先日は、45周年を記念して『ゴッドファーザー』の魅力を語らせていただきました。全3作を通じて、単なるエンターテインメントという枠を超えて文学的にも素晴らしい出来なのはパートⅡですね。でもパートⅡは、パートⅠがないとありえないわけですよ。パートⅠは、俳優、カメラワーク、音楽ともに最高水準の奇跡的な映画です」。
同シリーズのパートⅢは、それまでの2作と比較すると低い評価を受けてきた。その理由はどこにあるのだろうか。「ファミリーの三男、マイケル・コルレオーネ(Michael Corleone)の生涯を観尽くしたければパートⅢまでということになるが、ドン・ヴィトー・コルレオーネ(Don Vito Corleone)の生涯については2作目までを観れば十分。パートⅢは、パートⅡから10年以上経って製作されました。フランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)は金儲けのためにヒット作に手を出したと、世間に思われてしまったところがあります。パートⅡの時点で、マイケル役のアル・パチーノ(Al Pacino)に老けメイクをさせて次作を匂わせるべきだった。パートⅡの後に、パートⅢをすぐに作っていたら絶賛されていたかもしれません」。
「ゴッドファーザー」のブルーレイボックスが7月21日、製作45周年を記念して発売された。これまで販売されたパッケージには、日本語吹き替え版が収録されていなかった。同ブルーレイボックスは、1976年放送の日本テレビ「水曜ロードショー」版の日本語吹き替え音源を初めて収録した。「テレビ放送で初めて『ゴッドファーザー』を知った人たちはおそらく、マイケルを演じるアル・パチーノを野沢那智さんの声とともに観たはずです。野沢さんの声を聴けるところが売りですね。わたしもトークイベントをやるということで、先に観させてもらったのですが、野沢さんの声は素晴らしいものでした」。
吉川コンシェルジュは、日本語吹き替え版を観ることはほとんどないそうだが、野沢の声を絶賛する。「パートⅠの前半で、マイケルは銃撃されたドン・ヴィトーに『もう大丈夫だよ、僕がついているからね』と優しく語りかけます。後半、ラスベガスに乗り込んでいくマイケルは、ラスベガスのドンであるモー・グリーン(Moe Greene)に『あんたの持っているカジノとホテルを全部売ってくれ』と、とんでもなく凄みのある声で交渉します。野沢さんの声が一変することにびっくりしました。観終わってからすぐに、英語の字幕スーパー版も観て元の声と聴き比べてみたいと思いました。この場面の声は英語であるべきだと感じてしまう作品が多いなか、『ゴッドファーザー』はこの俳優にはこの声優で決まりだと納得できます」。
映画史に名を残す「ゴッドファーザー」だが、万全の環境で製作されたわけではなかったという。「音楽を担当したニーノ・ロータ(Nino Rota)と主演のマーロン・ブランド(Marlon Brando)以外は、当時ほぼ映画のキャリアがない人ばかり。コッポラも映画監督としては認められていない時代でした。今のハリウッドの体質であれば、そんな人たちに予算の大きなベストセラー小説の映画化を任せないでしょうね。当時のハリウッドのスタジオはよっぽど目利きがしたのだと思います。だからこそ、パートⅠで長男のソニー・コルレオーネ(Sonny Corleone)役のオーディションに落ちたロバート・デニーロ(Robert De Niro)が、パートⅡでドン・ヴィトーの若き日を演じられたわけです」。3部作を通してストーリーを味わうもよし、同じパートで声を聴き比べるもよし、まずはパートⅠを振り返ってみたい。
次回は、9月14日。デザイン大国オランダのこだわりが詰まった雑誌を紹介する。
今回のコンシェルジュ:吉川明利
1957年10月21日生まれ。小学校6年生で映画「若大将」に出合い、邦画に目覚め、中学3年生で「ゴッドファーザー」に衝撃を受け、それからというもの“永遠の映画オヤジ”になるべく、映画館で見ることを基本として本数を重ね、まもなく47年間で1万本の大台を目指せるところまで何とか辿り着く。2012年より代官山 蔦屋書店映像フロアに勤務。