SNS上でのインフルエンサー・マーケティングを専門とする米メディアキックス(Mediakix)が8月に発表した、ある実験が話題を呼んでいます。同社はこれまでインフルエンサーを起用したイベントの拡散などを行ってきましたが、「300ドル(約3万円)を払えば、誰でも一晩でお金を稼ぐインフルエンサーになるには?(How Anyone Can Get Paid To Be An Instagram Influencer With $300 or Less Overnight)」と題し、自社で偽のインフルエンサーを育て上げることができるのか、2カ月かけて実験をしたのです。
「インスタグラム上のインフルエンサー市場は現在10億ドル(約1090億円)といわれ、2019年までに倍増するともいわれている。好調な市場の一方で、一部のインフルエンサーはブランドスポンサーをつけるために、偽のフォロワーやコメント、『いいね』などのエンゲージメントをお金で買って、人工的にアカウントを育てている。この実験はそういったことが可能なのかを実証するとともに、まだまだフォロワーの少ないマイクロ・インフルエンサーにとっても非常に有用な結果を得られるはずだ」と語ります。
同社はまず、「ライフスタイルとファッションに対して感度の高いインスタモデル(lifestyle and fashion-centric Instagram model)」という架空の人物像のアカウント(@calibeachgirl310)を作成し、現地モデルを起用して1日で使用する数十枚の写真を撮りました。これでコンテンツはそろったわけです。
次に、写真を投稿してフォロワーを購入します。怪しくならないよう、1日1000人ずつフォロワーを増やし、何の問題もなく1万5000フォロワーまで増やすことに成功します。ちなみに、1000フォロワーで3〜8ドル(約327〜872円)だそう。結果として、2カ月と最低限の投資で5万人のフォロワーを獲得したといいます。単純計算で400ドル(約4万3600円)くらいでしょうか。加えて、コメントや「いいね!」を購入します。こちらは1コメントで12セント(約13円)、1000「いいね!」で4〜9ドル(約436〜981円)だったそうです。結果として、どの写真にも平均2500「いいね!」、10〜50のコメントがそろいました。ようやくフォロワーもエンゲージメントも増えたことで、マーケティング企業のインスタグラマーに登録をしたところ、なんと実際にスイムウエアを扱うブランドからオファーが来たのです。
同社は実験こそ成功したものの、「偽のインスタグラマーは業界の問題だ」と指摘をします。「市場が拡大する一方で、インフルエンサー側ももうけようとさまざまな方策に打って出ている現状がある。ブランドや広告主は顧客にリーチするためにインフルエンサーを起用することも多いだろうが、詐欺アカウントを広告に起用して広告予算を無駄遣いしてしまうような状況だけは避けねばならない」と締めくくります。
この実験はSNS大国アメリカでの話ですが、日本においてもこの問題は対岸の火事ではないでしょう。ブランドとしては、消費者に近いインフルエンサーを起用することで、少しでも消費者の目線に合わせた提案をするねらいがあると思うのですが、実態の見えないウェブ上の広告において偽アカウントとつながってしまうことは、消費者との溝を作りかねないものです。インフルエンサーマーケティングが過熱化する時代だからこそ、自社で起用するインフルエンサーの選定には細心の注意を払い、安心して依頼できるモデルを見つけることが重要なのかなと思いました。