西武船橋店と西武小田原店の来年2月末での閉鎖が25日に発表された。業界では驚きの声が上がる一方で、「やはりそうか」といった声も少なくない。西武船橋店の売上高はピークだった1991年度に比べて2016年度は7割減の169億円に落ち込んでいた。関係者や地元民には何かしらの予感はあったのだろう。
閉鎖が発表された翌日、西武船橋店に行ってみた。
JR船橋駅の南口に面したファサードには「開店五十周年 心より御礼申し上げます」の垂れ幕が飾られていた。同店は9月で開業半世紀を迎える。皮肉にもそんなタイミングでの発表だった。
駅の乗降客が多い土曜日の午後にもかからず、店内に客の姿は少ない。しかもほとんどが中高年の女性だった。婦人服売り場や紳士服売り場は8月下旬にしてはセールのサインが多い。
婦人服売り場で常連客らしい女性が「閉まっちゃうの?」と尋ねると、販売スタッフが「そうなんです。私たちも寝耳に水で……」と申し訳なさそうに言った。女性は「大変ねぇ」と慰めていた。閉店までの半年、店内の至るところでそんな会話が交わされるのだろう。
隣接するJR船橋駅南口では駅ビルの建築工事が進んでいた。11階建ての外観はほぼ完成しており、17年度末までに開業予定だ。1~5階にはJR東日本による商業施設が入るため、南口の商戦激化が予想されていたが、戦いが始まる前に西武船橋店が土俵を下りることになってしまった。親会社のセブン&アイ・ホールディングスは跡地を複合施設として再開発すると表明している。
船橋駅はJRと京成線、東武線が乗り入れており、駅直結の北口に東武百貨店船橋店がある。駅を挟んで西武百貨店と東武百貨店がしのぎを削る「ミニ池袋」の構図だ。西武が閉店となれば、一時的には東武に恩恵があるかもしれないが、楽観的な状況にはない。
東武百貨店船橋店の16年度の売上高は391億円(前年比3.6%減)。店内は西武船橋店と比べれば、人出はそれなりにある。しかし衣料品売り場はやはり人が少なく、セールのサインが幅を利かせている様子は変わりない。婦人服売り場の2階と3階の大部分は改装工事中だった。不振に陥っている婦人服売り場を3割削減し、ビックカメラ(店舗面積4200平方メートル)を誘致する。
商業地としての船橋市は好条件が備わっている。都心に近いわりには地価が安く、子育て世代の転入が多いからだ。今年4月には人口が63万人を突破し、20年間で約10万人も増えた。では、買い物客はどこに行ったのか。
船橋駅から南に約2キロの大型ショッピングセンター(SC)、ららぽーとTOKYO-BAYに足を延ばした。西武と東武を見た後だと、にぎわいの差に圧倒される。施設内は老若男女であふれかえっている。小さい子ども連れの家族が多い。百貨店で全く見かけなかった20歳前後の若いカップルも目立つ。衣料品のショップでは秋冬の新作が前面に置かれ、先物買いを楽しむ人がいる。セール品はすでに少ない。百貨店よりもハレの空間としての魅力がある。
そごう・西武の親会社であるセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一・社長は、昨年11月の会見で「百貨店市場の縮小は不可避。取引先との条件にしても、一番店と二番店以下の違いは今後さらに拡大していく」と述べ、地域一番店以外が存続するのは難しいとの見方を強調した。東京・新宿、大阪・梅田、愛知・栄などの大都市の繁華街を別にして、地方・郊外都市の多くがこれに当てはまる。昨年から今年にかけての千葉県の百貨店を見ても、三越千葉店、そごう柏店という千葉地区と柏地区の二番店が姿を消した。そして船橋地区の二番店である西武も撤退を余儀なくされた。
だが、その一番店でさえ、百貨店同士の争いだけでなく、大型SCとの集客競争に勝たなくては生き残ることはできない。克服すべき課題は山積している。