ここ大阪では、雑居ビルや高架線下に隠れ、小さなショップがコト重視のクリエイティブな進化を遂げているようだ。ピンクのサテン生地の布に覆われたショップもあれば、木の枝を天井から吊ってラックとして使っているショップもある。さらにビンテージも新品も、そして古着をショップ独自の価値観を加えたリメイクアイテムも全てごちゃ混ぜで売られている。
大阪のファッションシーンは東京の陰に隠れがちだ。東京のファッショナブルなエリアの地価は上がり続け、多くのショップが郊外に追いやられたようだ。実際のところ、クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(Cushman & Wakefield)の調査によれば、東京の主要ショッピングエリアの賃貸料は2016年には25%も値上がりし、東京の人気エリアの賃貸料は大阪の人気エリアの60%も高いという。
いつも人でいっぱいの東京に比べれば、大阪の観光ビジネスは見劣りする。そのため日本政府もあまり大阪のインフラには力を入れていないようで、大阪には今にも崩れそうな荒廃した雑居ビルが密集している。だが、賃料も安いため独自の雰囲気を放つショップは隠れた安息地となっている。今回フォーカスしたショップは儲けることよりも、仲間うちの商売とふらりと立ち寄った人が落としていったお金で成り立っているクラブのような、感情をかき立てる雰囲気のショップが多い。
東京と大阪間の移動は往復約3万円。法外に高いと感じたが、大阪独自の深い協働コミュニティーが築かれているのも納得できる料金だ。今回米「WWD」が訪れたショップは大阪中心街にほど近い、心斎橋と梅田の北にある中崎町にあった。
心斎橋のサイキックショップは、小さなバーが入居するボロボロの雑居ビルの階段を上った、放置された蛍光灯が点滅し床が黄色く変色した通路の先にある。そんな場所にあるにもかかわらず、服好きな中高生の放課後のたまり場となっている。
古着は二の次とでもいうように強烈なインパクトのビジュアルプレゼンテーションとディスプレーのこの店は、2層構造になっている。それぞれの階はウォークインクローゼットくらいの大きさで、ピンクのネオンに包まれた1階部分は、床に脱色された小石が敷き詰められ、天井からはアニメのぬいぐるみとガラケーがぶら下がり、“Kawaii”に完全に侵食された空間となっている。今にも壊れそうな鉄の階段を上った先にある2階部分は、ピンクのサテンの布で覆われ、服がところ狭しと並べられた店内の中心に置かれた砂嵐を延々と流すテレビ、「ハローキティ」の置物と“FIJI ミネラルウォーター”のコントラストはどこか現代的だ。
中崎町では、大阪環状線の線路下に店を構えるセレクトショップや古着屋が多いようだ。大阪と京都を中心にチェーン展開する古着屋JAMが運営するエルル バイ ジャム(ELULU BY JAM)もそんな、電車が走るたびに天井がガタガタと鳴る立地に店を構えるビンテージショップの一つだ。
線路から北に少し離れた場所には、小さな教室くらいのサイズのビンテージショップが何軒も入居するサクラビルがある。オフィスビルをビンテージショップ仕様に改装したビルには、夫婦で運営するギベリーナ(GHIBELLINA)や、天井から木の枝を吊り下げてラックとして活用し、バンドTシャツや「リーバイス(LEVI’S)」や「リー(LEE)」などのデニムブランドを販売するキー(KEY)が入居し、周辺エリアのビンテージ界隈のハブとなっているようだ。
おそらく戦前からそこにありそうな伝統的な日本家屋もちらほら見つかる中崎町周辺の住宅地には、セレクトショップや古着屋が点在している。ヤマストア(YAMASTORE)もそのうちの一つ。エントランスに吊られた“YAMASTORE”という文字をくぐって店内に入れば、レトロな冷蔵庫を再利用したディスプレーなどがあり、ショップのオリジナルブランドの他、ビンテージのピンやデニムを販売している。
今回紹介した大阪のショップには、ブランドを増やしたり、姉妹店を構えてマスに走るべきという概念は全くない。ニッチであることで十分なのだ。