7月、パリのセレクトショップ、コレット(COLETTE)の閉店というニュースが飛び込んできた。厳選のセレクトと週替わりのショーウィンドー、ブランドとのコラボレーションなど20年にわたり話題を提供し、パリのファッションシーンをけん引してきた。閉店の理由は明確に述べていないものの、ECサイトの波に押されてリアル店舗が厳しくなっている時代の流れを感じずにはいられない。
しかし、そんな中でも新たなトレンドが生まれつつある。今までのように特定のジャンルを“編集”してきたショップから、さらに細分化された一つのジャンルに絞った“偏愛”から生まれる専門店やオーダーメードショップに人が集まっているのだ。
パリ6区にブティック兼アトリエを構えるセミオーダーの帽子ブランド「ラ・スリーズ・シュ・ル・シャポー(LA CERISE SUR LE CHAPEAU)」は今年、17区に新たなショップをオープンした。多彩なカラー、グログランリボン、リボン通しを選ぶ帽子のオーダーが可能なほか、トレンチコートやブラウス、ワンピースなどシンプルでベーシックなアイテムも加える。同店舗の新しい試みとなったのが、帽子の作り方を学べる講座。約2時間で食前酒付きの講座は、185〜215ユーロ(約2万4000〜2万8000円)。事前にオンラインで申し込むと当日はデザイナーの指導の下、1920年代製の機械を使い、成形から仕上げまでが体験できて、お手製の帽子を持ち帰ることができる。
オーダーメードのライダースジャケットを扱うアリス・バラス(Alice Balas)も、今パリで話題のショップの一つ。2015年の立ち上げ以来、ケイト・モス(Kate Moss)やカロリーヌ・ド・メグレ(Caroline de Maigret)、ルー・ドワイヨン(Lou Doillon)らセレブリティーからのラブコールが絶えず、多くのメディアに取り上げられている。型や素材、カラー、ボタン、ポケット、ファスナー、裏地、刺しゅうとディテールまで細かく指示して、世界に一着のライダースジャケットを製作できる。
マレ地区にある、アフリカンビンテージを扱うマルシェ・ノワール(MARCHE NOIR)も外せないショップだ。内装は、イギリスの植民地だった“20世紀初頭のアフリカ”がテーマ。古着の他、コンゴやガーナの伝統的な民族衣装やハンドメードの生地を用いたオリジナルアイテムも展開している。地下は、オーダーのための採寸などができるスペースに改装中という。トーゴ共和国出身のオーナー、アマ(Amah)の郷土愛が生んだショップは、アフリカの新たな魅力を体感できるショップとして注目を集めている。
パリのファッションの流れはオートクチュールに回帰しているだろうか?オリジナリティーの高いオーダーメードやパーソナルな体験を通して生まれるアイテムが再評価されている。今後ますます広がりそうな“偏愛”ショップは、SNSでチェックするだけでなく、足を運んで独特の空間を味わってほしい。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける