ラフ・シモンズ(Raf Simons)による新生「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」の第2幕は、2つの点で今のファッションに疑問を投げかけているかのようだった。
ショーは、まるで半年前のデジャブだ。素材こそウールからシルクタフタに変わったが、ファーストルックは、半年前のそれとほとんど同じ。フラップポケット付きのシャツと側章入りのスリムパンツという、マーチングバンドのユニホームスタイルでスタートした。以降もマイクロチェックのフォーマルやデニムの上下、パッチワーク、そしてPVC(ポリ塩化ビニル)のミニドレスなど、2017-18年秋冬さながらの洋服が次々現れる。“アメリカにおけるさまざまな典型的スタイル”を表現したという17-18年秋冬同様、“アメリカンライフの実際”を描いた18年春夏は、もはや半年前と大きく変わらなくても良いらしい。ここに、ラフが投げかけた疑問の1つを見ることができる。彼はど真ん中の直球を投げ、「ファッションは、本当に半年おきに変わらなければいけないのか?半年前と同じではダメなのか?」と問いかけているようだった。
もちろん、この手の問いかけは、今に始まったことではない。例えば「エルメス(HERMES)」は長きにわたり「永続性」を意味する「エターナル」という言葉に価値を置き、“変わらないものの素晴らしさ”を訴え続けている。近年では「グッチ(GUCCI)」のアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)も折衷主義から軸足を動かさず、唯我独尊のクリエイションを続けている。しかし今回の「カルバン・クライン」は、「エルメス」よりも「グッチ」よりも半年前との差異が少なく、似通っていた。そこには、「カルバン・クライン」というメガブランドのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを託され、右腕のピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)=クリエティブ・ディレクターと心血を注ぎ世に送り出したファースト・コレクションへの絶対の自信が見え隠れする。
とは言え、それぞれのルックは、半年前とは少しずつ異なっている。例えばマイクロチェックのフォーマルには包丁など狂気性を帯びたイラストが影のようにのせられたし、デニムにはおどろおどろしいプリント。パッチワークは黒ベースに変わり、PVCのミニドレスにはモノトーンのイラストがのせられた。いわばいずれもダークサイド、もしくはホラーに変換されている。
ラフは今シーズン、映画、特に夢の源泉とも言えるハリウッドにインスピレーション源を得たが、アメリカン・ドリームとともにアメリカン・ナイトメア、つまり悪夢にも思いを馳せ、すべての洋服をダークサイドに突き落とした。彼は、「コレクションは、アメリカン・ビューティとアメリカン・ホラーの融合。ファッション業界は普通、ホラーをひた隠し、ビューティを描くだろう。しかし、ホラーも間違いなく人生の一部分。両方を描くことが、アメリカンライフの賛美につながるんだ」という。
ダークサイドに目を向け、これをストレートに描くことが今の時代、果たして人々の共感につながるのだろうか?インスタが生まれて以降、ポップでハッピーになるばかりだったモチーフやムードの観点からも、ラフは今のファッション業界に疑問を投じているようだ。