トム・フォード(Tom Ford)、「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」のラフ・シモンズ(Raf Simons)に続き、この人もまた、大御所デザイナーの底意地を見せつけた。ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)だ。
“見て、すぐ買えるコレクション”の2017-18年秋冬「ラルフ ローレン コレクション(RALPH LAUREN COLLECTION)」は、ラルフが愛してやまないスーパーカーのガレージ、それもマンハッタンから車で1時間半強の田舎町ベッドフォードにあるプライベートガレージが舞台だ。
会場に駆けつけた日本初のブランドアンバサダーEXILEのAKIRAによると、ここは、AKIRAがアンバサダーに就任する際、ラルフから「どうしても事前に見ておいてほしい」と言われたほど、ブランドにとって切っても切り離せない大切な場所。一方で「見てほしい」と言いつつ、一切の写真撮影を認めなかったというラルフの“聖域”だ。車への情熱が人一倍のラルフは、お気に入りを見つけると保存用と走行用として同じ車を2台購入。専属の整備士が常時メンテナンスを行い、ラルフからリクエストがあると、最高の状態で車を届けるのだという。ブランド側によれば、関係者はショーの当日もなお、車が傷つけられやしないかとハラハラしながらショーと、続くディナーパーティーを見守ったという。今回ラルフはそれほどの空間を敢えて選び、勝負に打って出た。苦境が続き、ようやく光明が見えてきたビジネスのアクセルを踏み込むためか?それとも、有能なデザイナーの流出が続き“地盤沈下”が不安視されるニューヨーク・コレクションを盛り上げるためか?理由は語っていないが、“覚悟”があったのは間違いない。
そして覚悟は、クリエイションから滲み出ていた。久しぶりにゾクゾクした。覚悟と強さ、勇気にあふれたコレクションだった。きっとその覚悟と強さ、勇気は、値段を言えば億単位の車の数々が運んできてくれたのだろう。コレクションは、所有する車にふさわしい伝統的なスタイルに始まり、以降ボディにインスパイアされた色と光沢、そして流線もしくは直線のシルエットへと続く、考え抜かれたラインアップだった。車を愛してやまないラルフだからこそ、それをインスピレーション源に、ガレージを舞台に開くコレクションで失敗は許されない——。そんな覚悟は、結実した。
序盤は、グレンチェックのコートやジャケット、そしてニットのチェック・オン・チェックで描くビンテージカーの世界。そしてスーパーカーの世界が後に続く。スカート姿のモデルはレザーライダースを羽織り、メンズは黒一色の装いにカープリントのブルゾンでキメる。そしてイブニングは、車の色の世界。一点の曇りもない黒、赤、そしてイエロー。シルクはもちろん、ラミネート加工を施したハイテクヤーンを駆使して、ピカピカに磨き上げた車体さながらの光沢を表現した。ドレスは、上半身がビンテージカーを思わせる曲線のボディコンシャスで、下半身がスーパーカーを思わせる直線的なAラインだ。
車好きのラルフだけあって、アイデアが溢れ続け、クリエイションが楽しくて仕方なかった。そんなシーンが想像できた。大御所が奮起しニューヨークコレクションは、まだまだ大丈夫だ。最終日は「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」と「マーク・ジェイコブス(MARC JACOBS)」のランウエイが控えている。