ペリカン(Pelican)と聞いて、鳥ではなくパンを思い浮かべた人にうれしいお知らせです。10月7日にドキュメンタリー映画「74歳のペリカンはパンを売る。」が公開されます。舞台となるのは浅草に店を構える老舗パン店、ペリカン。浅草の街の人々の生活に馴染む街のパン店であり、パン好きなら誰もが知っている有名店でもあります。驚くべきは、その営業スタイル。作っているのは、食パンとロールパンというたった2種類であるにもかかわらず、多くの人から愛され続けています。
1942年に東京の浅草・田原町の寿四丁目に誕生した渡辺ベーカリーは、49年に店名をペリカンに変えました。当時の喫茶店ブームを機に卸売を強化し、この頃、食パン、ロールパン、バンズのみをつくるという独自のスタイルを確立します。開店前には店の前に行列ができ、店内の木の棚には予約済みのパンがずらりと並ぶのが毎日の光景。余計なものを一切加えず、昔ながらのシンプルな製法でつくるパンは、毎日食べても飽きのこないおいしさです。
映画では4代目店長である渡辺陸さんを中心に、先代たちが築き上げてきたものを守りながらバトンをつなぐ、ペリカンの人々の姿を見ることができます。商品数をしぼり“極める”という選択から感じられる、ものづくりに対する真摯な姿勢は“働く”ということや“生きる”ということの意味を、あらためて私たちに問いかけてきます。ペリカンのパンを愛する人たちのインタビューも収録されているのですが、これがとても興味深いのです。おいしさの表現も、お気に入りの食べ方も、ペリカンに通う理由も、皆それぞれ違うのがとても自然で、この懐の深さこそがペリカンが人々を惹きつける秘密なのではないかと思うのです。
創業から74年を迎える今年、8月にはペリカンカフェがオープンし、10月には映画の公開、そして書籍の刊行も控えていいます。また10月14日に開催される第12回青山パン祭りでは、映画秘話やペリカンが愛され続ける理由に迫るトークイベントも開催予定です。理念と伝統を守りながら、新しい挑戦を続けるペリカンから目が離せません。
■74歳のペリカンはパンを売る。
上映時間:80分(一部モノクロ)
監督:内田俊太郎
企画・製作:石原弘之
出演:渡辺多夫、渡辺陸、名木広行、伊藤まさこ、保住光、中島進治、中村ノルム、藤森甚一、清水英貴、立林忠夫、立林美津江、柿崎哲也、片平秀貴
配給:オルケスト
上映館:ユーロスペース他、全国公開
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