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連載 木曜日の代官山 蔦屋書店

代官山 蔦屋書店で人気の恋愛本 「I love you」をどう伝える?

 本連載では、代官山 蔦屋書店コンシェルジュが今注目のオススメを紹介する。今回は、文学担当の間室道子コンシェルジュが“恋の言葉”にまつわる2冊をピックアップ。恋に敗れたばかりの人も、夏の熱い恋が継続中のあなたも、いつもよりロマンチック度数高めの間室コンシェルジュの話に耳を傾けてほしい。

 「月が綺麗ですね」。夏目漱石が「I love you」をこう訳したことは有名な話だ。「英語教師だった漱石が授業中に、『我君を愛す』と和訳した学生に向かって、『日本人がそんなこと言うものか』と、自ら訳した言葉だという逸話が残っています。それから100年以上経ても、日本人は『君の味噌汁が毎日飲みたい』なんていう言い回しをしますよね。恋に饒舌な欧米人からすると、なぜ相手のいいところを褒めて『愛してる』と言わないのかと思うでしょう」。

 このように日本人はなかなかストレートに愛の告白をしない。「I Love Youの訳し方」(望月竜馬・著、ジュリエット・スミス・絵、雷鳥社、1200円)は、世界中の詩人、文豪ら100人が「愛してる」と言わずして、その気持ちをどう表現したかを紹介した1冊だ。「著者の望月竜馬さんのプロフィール欄に、“編集者・ライター・ロマンチスト”と書かれているだけあって、各フレーズについている彼の解説文はロマンティックが止まらない(笑)。でも、選び出した文章をみると、目の付けどころが素晴らしい」。


僕は愛する清さんの事になると全くの馬鹿になってしまう。僕はどうして居たらいいのだろう
内田百閒
『堀野清子へ宛てた手紙』より(本書p.14から)

 「内田百閒は親友の妹に送ったラブレターの中で、愛と馬鹿という切っても切れない境地を描いています。さすがですね。ユニークなのは綿矢りささんの『私あなたのカルシウムになりたい』という言葉。美人画で有名な竹久夢二は本当にストレートに表現しています」。


話したいことよりも何よりもただ逢うために逢いたい 竹久夢二
『竹久夢二、恋の言葉』(河出書房新社)より(本書p.8から)

 表現の仕方は十人十色だが、読んでみると日本人には「I love you」だと分かるはずだ。「これを読めばSNSで送る愛の告白のつまらなさに絶対気づくはず。告白の手段は、その後の愛の持続性のバロメーターだと思います」。

 2冊目は、世界の名詩を超訳した「かのひと 超訳 世界恋愛詩集」(菅原敏・著、久保田沙耶・絵、東京新聞出版、1700円)。アーティストの久保田沙耶の絵の見開きをめくると、超訳と左下に引用元が載っている。「超訳なので現代語訳ではなく、著者で詩人の菅原敏さんの解釈を加えたオマージュになっています。わたしは原典を見ずに超訳だけを読んでいったのですが、後から引用元を見ると小野小町の3つの歌から詩を起こしていて、これはすごいと思いました」。

 日本の作家の他、ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)やボリス・ヴィアン(Boris Paul Vian)ら海外作家の詩も超訳されている。「暴走族のやんちゃなフレーズかと思って読んでいると、実は杜甫の『国破れて山河在り』だったりするんです(笑)。原典と読み比べると菅原さんのぶっ飛び具合が分かります。とはいえ、多くの人は原典を知らないので、どこが“超”なのか分からないかもしれません。読者が実際に原典に当たってみようと考えるきっかけとして、この本を評価したいです」。

 冒頭には、「図書館の片隅で埃をかぶっている古い詩集たち。その中に、小さな宝石を見つけ出すように」という著者の言葉がある。「誰にも顧みられずにいるよりは、誰かが手を差し伸べることで、閉ざされた世界が豊かに広がったほうがいい。恋する人の気持ちのあり方そのもののような気がします。こういう本の存在って誰かに話したくなると思うので、今日は仕事を早目に切り上げて、恋しい人に会いに行ってはいかがでしょう」。

 次回の10月12日は、まるで工芸品のような筆記具“ガラスペン”の奥深さに触れる。

今回のコンシェルジュ:間室道子
代官山 蔦屋書店勤務。雑誌やTVなど、さまざまなメディアでおススメ本を紹介する「元祖カリスマ書店員」。書評家としても活動中で、現在「プレシャス(Precious)」「婦人画報」など連載多数。文庫解説に「タイニーストーリーズ」(山田詠美 / 文春文庫)、「母性」(湊かなえ / 新潮文庫)、「蛇行する月」(桜木紫乃 / 双葉文庫)などがある。

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