「プラダ(PRADA)」のファッションショーはいつも、会場演出から始まる。フォガッツァーロ通りにある社屋を使用し、会場の壁や床、天井などを丸ごと使ってメッセージを伝える。
2018年春夏コレクションの会場を飾ったのは、6月に発表したメンズと同じく漫画だった。9人の女性漫画家・イラストレーターによる、女性を主人公にしたコマ割りの漫画が、壁いっぱいに描かれた。大型犬を相棒に列車で旅する女性、脳内が爆発している女性、恋する女性。感情豊かな女性たちの絵に囲まれてショーが進む。
あるコマは服を選ぶ女性のセリフで、「私が何を着るかって?フェミニンに見えすぎるのはイヤ。だけど、ビッチに見えるのもイヤなの」とある。2面性はいつでも「プラダ」のキーワードだ。
漫画家の中には日本人もいた。ローマのレストランを舞台にした作品「リストランテ・パラティーゾ」などで知られるオノ・ナツメで、オノが描いた黄色い髪の女性が壁面や服を飾った。
もちろん、服にも漫画の要素が随所に見つかる。3種類のコットンをキャンバスに見立てて、プリントを施す。コミックを全面にプリントしたドレスや、ヘリンボーンの転写プリントのコート、製品染めによる“染め忘れ風”トロンプルイユを施したシリーズなど。パンキッシュなヒョウ柄の襟や、カラーストーンを手付けしたDIY風装飾など、ファッションが大好きな女の子があれこれカスタマイズしたようなアイデアも楽しい。定番素材“ブラックナイロン”のバッグはスタッズを飾り、ストリートっぽく仕上げている。
ともすれば近寄りがたい強さにつながる「プラダ」だが、漫画のフィルターを通したら、ポップでキッチュな印象が加わり親しみが加わった。漫画は、登場人物が感情的になったり、戦ったりしても、決して平面から飛び出すことのない2次元の世界。読み手の頭や心の中だけがザワザワする世界だ。だから「プラダ」のように個性やメッセージが強ければ強いほど、平面の漫画とは好相性なのかもしれない。「プラダ」を着た“悪魔”な女たちもこの服をきることで脳内は乙女の世界へダイブ。そんな効果もありそうだ。