女性の社会的立場向上といった主張は、声高に言うほど煙たがられて通りにくくなるものだが、だからと言って怖じ気づくことなく堂々と声をあげるよう。ただし、しかめ面ではなく笑顔で。「ディオール(DIOR)」の2018年春夏コレクションはそんなメッセージを発している。
「ディオール」が“WE SHOULD ALL BE FEMINISTS”のメッセージをTシャツに掲げたのは1年前ののこと。今シーズンは冒頭で“WHY HAVE THERE BEEN NO GREAT WOMEN ARTISTS?”と書いたボーダーTシャツを、モデルのサーシャ・ピヴォヴァロヴァ(Sasha Pivovarova)が着て登場した。「歴史に名を残す芸術家の多くが男性であり、女性が少ないのはなぜだろう?」という疑問はつまり、女性芸術家が少ない理由は、能力の差異ではなく社会的環境故であることを訴えている。
冒頭から至極真面目なフェミニズムのメッセージだが、ショー全体を包む空気は軽やかなもの。それは、メッセージを載せたルックがマリンボーダーのTシャツと濃淡のブルーをはぎ合わせたデニムだから。メッセージTシャツ以外は、奇をてらうことのないアイテムばかり。水玉のシフォンブラウスにレザーのライダース風パンツ、アイコンの“バー”ジャケットにショートパンツとチュールのオーバースカートなど、対比を効かせたミックススタイルが続く。
赤、青、黄、緑と、これまでより色が多彩なのは、女性アーティスト、ニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle)の作品から着想を得たから。ニキのポップな彫刻をスパンコール刺しゅうやパッチワークで取り入れた。足元は編みタイツをそのまま靴にしたようなフラットのロングブーツで軽快だ。
ラフ・シモンズ(Raf Simons)時代のコンセプチュアルな「ディオール」と比べると“フツウ”の服であるが、その分リアルクローズとして女性たちから支持を集めている。フロントローでは若い人から長年の顧客と思われる年配の人まで、幅広い年代の女性が最新の「ディオール」を個性的に着こなしている。ルックの提案通りではなく、着る人の個性によって着こなしの幅が広がるのも“フツウ”故だ。
それにしてもパリコレというファッションビジネスの祭典でこのようなタフなフェミニズムのメッセージを掲げ、拍手喝采を受けるマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri )は、もはや「ディオール」だけでなく、ファッション全体のリーダーと言ってよいだろう。ショー後のバックステージで、彼女の元へは興奮した観客が詰めかけた。混乱を避けるために彼女を奥へと連れて行こうとするセキュリティーをおだやかに静止し、客ひとりひとりと心を込めてハグを交わす態度が印象的だった。パンツスーツ姿で髪をひっつめた姿は逞しく美しく、絵画「民衆を導く自由の女神」に描かれる大きな旗を振って民衆を導く女性マリアンヌにすら見えてきた。