ファッション

「本物」を追求するには“古典”を学ぶべし UA重松名誉会長とPoggyがトークショー

 ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS以下、UA)の重松理・名誉会長が理事長を務める日本服飾文化振興財団(以下、財団)が、旧UA原宿本店ウィメンズ館3階の多目的スペースで開催した「The Authentics – eternal source of creativity -オーセンティック展」(9月7~18日)。同財団が所有するガーメントや資料など約5000点から選んで展示されたアイテムは、ファッションに携わる人、志す人に大きなインスパイアを与えた。会期中には、財団主催の重松理事長とUA原宿本店のディレクターも務める小木(Poggy)基史UA&サンズ クリエイティブ・ディレクターのトークショーも行われた。2人が考える「オーセンティック(本質、本物)」とは。そしてファッション業界を志す若者に伝えたいこととは――。

財団:オーセンティック展を開いた理由は。

重松理・理事長(以下、重松):私が考える本質とは、書の楷書、行書、草書に通じるものだ。楷書は真書と言って、真書は原則であって根本である。型である真を学び、自分の表現にしていくことで、行書、草書へと崩していく。この型を学んで自分のモノにしない限り“型無し”になる。UAでスタンダードを大切にすることを言い続けているのは、真(書)をまずは徹底的に理解することが大切だと思うからだ。

財団:「本物」と「本物でないモノ」の違いは。

重松:本物とは、歴史と伝統に裏付けられた時代が残したもの、沈殿したものだと思っている。社会の潮流、ファッションの潮流があるが、残っていくものがオーセンティック。オートクチュールを見ても分かるように、常に古典に軸足を置きながら、その人なりのデザインに落とし込んでいくのがすぐれたデザイナーの手法だ。本物というのは時代を超えても継続して評価されると考えている。

財団:「本物」をいつ知り、学んだか。

小木基史UA&サンズ クリエイティブ・ディレクター(以下、小木):ディレクターだったリカー、ウーマン&ティアーズ(LIQUOR、WOMAN & TEARS以下、リカー)後、UAでスーツ部門の配属になった。リカー時代はスーツを重要視していなかったが、ストリートスナップの巨匠、スコット・シューマン(Scott Schuman)が主催するディナーにスーツを着て参加したり、メンズの見本市、ピッティでスーツのブランドの人と話をしたりすることでスーツの基本を学んだ。スーツという基本の重要性や本物を学び、それを崩すことができる今は楽しい。基本は大切だと思う。

財団:オーセンティックという言葉は、よく使われるがイメージはあいまいだ。この言葉から連想するものは。

小木:UA社内では、オーセンティックよりも、トラッドマインドという言葉を使っている。トラッドを突き詰めていくとテイクアイビーにあたり、テイクアイビーを作ったのが「ヴァン(VAN)」だった。ヴァンの人たちに「トラッドとは?」と聞くと、「どんな良いモノでも終わってしまえばそれはクラシック。作った人たちが良いモノを次に伝えたいと思い、また若い人たちが古き良きモノを学びたいといった、点と点のつながりが線になることでトラッドになる」と教えられた。それまでトラッドとは、「リーバイス(LEVI’S)」の“505”や、「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」のボタンダウンといったモノで考えていたが、伝える行為自体がトラッドなんだと気づいた。「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」のワークブーツが、パンクな人たちが履いたことでパンクな靴と認識されたり、木こりのために作られた「ティンバーランド(TIMBERLAND)」のブーツが90年代にヒップホップ界で履かれるようになったり。重松理事長から聞いたが、江戸時代に歌舞伎役者が縞の着物を着て舞台に出たら、次の日には町に縞の着物を着た人があふれたとか。伝え方も大切だと感じた。

財団:インスピレーションはどこから得ているのか。

小木:UAメンバーが必ず出張で行くのが、伊・フィレンツェの「オールドイングランドストア(OLD ENGLAND STORE)」だ。イタリア人が考える古き良きイギリスがそこにある。お菓子やお茶、洋服など生活雑貨にまつわるものが置いてあるが、毎回何も変わらない(笑)。20年以上前の「ジョンスメドレー(JOHN SMEDLEY)」がずっとあり、変わらない良さがある。イタリアの人は、東京の新しいモノが生まれるスピードをうらやましく思うが、逆に東京は変わらないと満足できないのだと思う。イタリアの人は、同じ女性と同じ道を散歩して、同じレストランに行く……。変わらない豊かさというものをイタリアの人から学んだ。その象徴が「オールドイングランドストア」だ。また、英・ロンドンのジャーミンストリートもインスピレーションを得られる場所だ。ビスポークのシャツショップ「ターンブルアンドアッサー(TURNBULL & ASSER)」などジェントルマンが通う店が並んでいるストリートで、学ぶことは多い。1軒だけでなく通り全体が人に愛されていると感じる。また、仏・パリで本物を得られるシャツの店「シャルベ(CHARVET)」もそうだ。

重松:UAの取締役を退任するときに、普段は非公開の伊勢神宮茶室の霽月(SEIGETSU)を見ることができたが、日本の様式美のすばらしさに、どんな価値よりもすごいものを見てしまったような気持ちになった。われわれはこれまでずっと西洋の文化を紹介してきて、それはそれで意味があったと思うが、日本の美意識や文化を真・行・草で表現したこともなかったし、掘り下げたわけでもなかった。今は、日本の文化や基準、様式美を広く見られる機会を作りたいという思いがある。

財団:今、デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)など、ストリート世代のデザイナーが台頭しているがその流れをどう見るか。

小木:おもしろいと思う。ある先輩から、ストリートは道であり、誰もがやっていない方法で道を作るのがストリートだと教えられた。今、イタリアにニューガーズグループ(NEW GUARDS GROUP)という企業があるが、オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」「マルセロ・ブロン(MARCELO BURLON)」「パーム・エンジェルス(PALM ANGELS)」といったブランドの企画・生産、ショープロデュースをしている会社だ。モードをずっと売ってきた人とビンテージをやってきた人、2人のオーナーが作った会社だが、彼らはモノ作りやファッションの知識はあるが、アイデアがなかった。だから今の時代に合った新しいアイデアやソースを入れたくて、マルセル・ブロンを呼び、マルセルがヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)を連れてきた。ニューガーズグループがモノ作りを支援することで、メード・イン・イタリーにストリート性が加わり、今のラグジュアリーストリートの流れになっているだと思う。デザイナーでは、デムナがユーモアを大事にしていてよいと思う。後は「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズデザイナーのキム・ジョーンズ(Kim Jones)もそう。彼は青春時代にストリートファッションの洗礼を受けていて、「ダンヒル(DUNHILL)」などで学び、そして「ルイ・ヴィトン」のデザイナーになった。また彼はロンドンで「ギミーファイブ(GIMME FIVE)」に所属し、そのヘッドのマイケル・コッペルマン(Michael Koppelman)が藤原ヒロシさんと親交があり、それを見ていた。だから、いつかこういう人たちと仕事をしたいと思っていたのだと思う。彼が、ヒロシさんや「シュプリーム(SUPREME)」とコラボという流れはあったと思う。

財団:本物をどのように生かしていくのか。

小木:本物をきちんと理解すること。そしてプレゼンテーションが大切だと思う。東京ファッションアワードの審査員をしたりバイイングで世界を見たりして思うのが、ヨーロッパのブランドは、「われわれのブランドは、こういう歴史があって、こういう背景です」というのが明確にあり、アメリカの展示会では「リアーナが着たとか、有名なミュージシャンが着てくれた」といった話になり、日本の展示会に行くと「この生地、縦糸と横糸が……」という話になる。日本のデザイナーは真摯にモノ作りをしている。けれども、それを伝えるのが苦手だったりする。ただ、今はモノ作りだけでなくプレゼンテーションも重視するデザイナーが出てきているので期待している。

財団:ファッションを目指す人に一言。

重松:欧米のデザインスクールやファッションビジネススクールでは、まず古典を学ぶ。古典自体がオーセンティックと彼らは理解しているし、真だと思っている。そこを全て理解した上で自分の表現をする。ファッションを学ぶ人は、まずは古典を学ぶこと。正しい基準を学ぶことが本当に重要だ。だからこそ、本物を見てもらいたい。財団にはたくさんの収蔵品や資料があり、誰でもいつでも見られるので活用していただきたい。

小木:10~20代には、いろんなことをがむしゃらに経験してもらいたい。30代は言葉にして続けていくことで、40~50代になったら何も言わなくてもかっこいい大人になると思う。

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