トランプ政権が誕生して約8カ月が経ち、米国では多様性や女性の権利、LGBTQの保護などがあらゆるところで叫ばれる中、デザイナーの多くもフェミニンでありながら自身の意志を強く持つ女性像を描いた。合わせてメイクは、多様性を尊重し、個人が生まれ持つ美しさを生かしたナチュラルな肌は健在だった。一方で、目元は、大胆にアイラインを跳ね上げた力強くドラマチックなものから、ベルベットのような滑らかなカラーをなじませた上品で知的なものまで、現代女性のあらゆる面を表現したかのよう。そして全体的に濃く仕上げるのではなく、目元や口元だけ、といったポイントメイクでバランスがとれたルックが目立った。ニューヨーク・コレクションのバックステージで見た最新ビューティトレンドを紹介する。
“変形ライナー”で一味違う目元に
ボトムライン(目の下のライン)に引いたラインを下から跳ね上げたり、キャットアイの先を丸く鈍らせたり、あえて目の形に合わせず直線的にラインを引いたりと“変形アイライナー”が目立った。ブラックのライナーの下にさりげなくカラーをかぶせるという巧みなアイデアも新鮮。
鮮やかなカラーも単色使いで簡単アイ
難易度が高そうな鮮やかなマットイエローなどを、ワントーンでシンプルに仕上げ、温かみのあるピンクやシャンパンカラーは、シマーシャドウやクリームといったしっとりした質感を用いることにより、サテンのような艶やかでセンシュアルな目元を演出。いずれも1、2色だけを幅広く伸ばし、一般の人でもまねしやすいルックだ。
みずみずしい艶肌で作るフレッシュフェース
さまざまな人種が存在する米国では、ありのままの体形や肌色を受け入れる動きが浸透しつつある。その動きを反映するかのように、今季も引き続き個性を生かした“生肌”が主流。スキンケアを入念に仕込んだ健康的でみずみずしい艶肌は、フレッシュで生き生きとした印象を与える。そして瞳の色や骨格など、生まれ持った美しさが際立つ。
王道の赤リップはマットが今季風
ナチュラルな肌に赤リップを合わせてインパクトを口元に置いた。王道の赤リップは口の輪郭の外にはみ出るように少しオーバー気味に描いたり、口角だけディープな色をブレンドしてオンブレ(グラデーション)風に仕上げたりして、セクシーさや女性らしさを強調。今シーズンの質感は断然マットが多い。
“ちょいクセ”が効いたリラックスヘア
アイロンやカーラーでふんわりゆるく巻いたり、ウエーブをかけた髪をほぐしたりと、エフォートレスでリラックスしたスタイルが目立った。少しクセを出したヘアは、作り込まれた美しさではなく、朝起きたばかりのようなナチュラルな美しさを演出。
カラーネイルがカムバック!
ナチュラルなネイルがここ数シーズン普及していたが、今季はフェースメイクがシンプルな分、ネイルは派手に仕上げたり、凝ったデザインを施したりするブランドが多かった。ネオンカラーのロングネイルでインパクトを出したネイルや、パールやビジューを付けたデコレーションネイルも。
今季、ニューヨーク・コレクションのバックステージでは、トレンドセッターになりそうなブランドも多く見られた。特にビューティーが注目のブランドをピックアップする。
ALEXANDER WANG アレキサンダー ワン
MAKEUP/ダイアン・ケンダル HAIR/グイド・パラウ
一人一人の生まれ持った美しさを祝福
みずみずしく健康的な肌と、一人一人の骨格や美しさをそのまま生かしたメイク。肌はたっぷり保湿してからファンデーションベールのように薄く伸ばした。アイホールと頬骨の上には「NARS」のハイライターをサッと入れ、光を集めた。眉は整える程度で、マスカラも根元に少しのせるだけ。リップはほんのり色づくリップバームをなじませ、潤いを足した。ヘアは、シャンプーした後にクリームをなじませ、ディフューザーで少し乾かした後に自然乾燥させた。ストレートヘアのモデルにはアイロンで自然なテクスチャーをプラスし、重さを足した。モデルのステラ・ルチア(Stella Lucia)だけは、ローズクォーツをイメージした淡いピンク色に染めた。
MARC JACOBS マーク ジェイコブス
MAKEUP/ダイアン・ケンダル HAIR/グイド・パラウ
8種類のミステリアスなキャットアイ
“SOMEWHERE(どこか)”へ旅してきたかのような今季の女性像に合わせ、ダイアン・ケンダル(Diane Kendal)はミステリアスでドラマチックなキャットアイを作った。目頭から目尻まで幅広く太く入れたものから、目全体を囲むようにアーモンド型に入れたもの、目尻だけ大胆に跳ね上げたものなど、8種類のキャットアイが登場。ジェルペンシルとリキッドライナーのダブル使いで粘膜までブラックのライナーで埋め、引き込まれるような迫力のある目元に。肌はジェル状のハイライターを入れ、光を反射する艶やかな肌に仕上げた。リップはバームの上にヌーディーなローズラーのリキッド状のルージュを重ねてから指でぼかした。ケイト・モス(Kate Moss)がメットボールに着用したターバンやソフィア・コッポラ(Sophia Coppola)のターバンを巻いたポートレート写真からインスパイアされ、モデルの頭を飾ったは、プリントスカーフをターバン状に巻き上げたカラフルなヘッドピースだ。
JEREMY SCOTT ジェレミー スコット
MAKEUP/KABUKI HAIR/ユージン・ソレイマン
目元に光を集めるプレイフルなジュエルメイク
ネオンカラーを多用し、モンスターのイラストやフューチュリスティックなルックが登場した今季は、洋服が派手な分、メイクは少し控えめに。肌色に合わせたカラーのクリスタルを3粒、目の下にポイントとして置いた。KABUKI は「小粒のクリスタルを施し、プレイフルな目元を演出。クリスタルは一歩間違えると“ゴテゴテ感”が出てしまい、下品になりがち。小粒のものを3つのみ使用し、肌は生まれたての赤ちゃんのように、ピュアでクリーンに仕上げた」と語った。マスカラやアイブロウは使用せず、リップもナチュラルなカラーを使用。一方で、ネイルはネオンオレンジやピンクのカラーを塗った後、爪の周りにシルバーのグリッターを満遍なくまぶした。ヘアは、テクスチャーを出したビーチヘアやポニーテールなど、一人一人の個性に合わせてアレンジ。スリークなポニーテールは、クリームを馴染ませて艶を出してからブローし、ムースを仕込んできつく結んだ。
TOM FORD トム フォード
MAKEUP/パット・マクグラス HAIR/オーランド・ピタ
ゴージャスなアイメイクにソフトなタッチを
“ファッキング・ファビュラス”が今季のテーマ。自身の女性らしさを自負する、セクシーでグラマラスな女性像を描いた。メイクアップはブラックのペンシルで目尻を跳ね上げたが、キャットアイのようにシャープなラインではなく、あえて先を丸く仕上げた。その上にグリッターシャドウとアイグロスを重ね、艶やかやかでゴージャスな目元に。パット・マクグラスは「今季は、芯が強く、少しデンジャラスな女性がコンセプト。強めのアイメイクだが、あえて丸みを帯びたソフトなラインに仕上げた」と語った。ヘアはテクスチャーのあるラフでボーイッシュなピクシーカットで、強さをプラスした。