左:「ユニクロ アンド ルメール(UNIQLO AND LEMAIRE)」キャンペーンビジュアル 右:「H&M」×「バルマン(BALMAIN)」キャンペーンビジュアル
弊紙のウェブ版WWD JAPAN.comはファッション関連のニュースを毎日20〜30本配信しているが、そうした中で最近他を圧倒して多いのが「コラボ」関連のニュースである。ほぼ毎日のように、ブランドAとセレクトショップB、ブランドCとデザイナーD、菓子のEとファッションブランドF、ブランドGとゆるキャラHなどのコラボネタが紹介されている。中には、いくらなんでもこの2つがコラボをして何のメリットがあるのかと首をかしげるような組み合わせもある。コラボ戦略は他の業界でも増えているようだが、ファッション業界が群を抜いて多い。
いつごろからファッションコラボが本格化したかと思い起こすと、いわゆるファストファッションとデザイナーとのコラボがそのきっかけだと思える。2004年にH&Mがデザイナーコラボ第1ダンとしてカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)とのコラボを発表したのが思い出される。これに続いてH&Mはステラ・マッカートニー(STELLA McCARTNEY)(05年)などビッグネームのデザイナーはもちろん、マドンナ(Madonna)やカイリー・ミノーグ(Kylie Minogue)などのセレブ、あるいはFashion Against AIDSと称したエイズ撲滅キャンペーンでもデザイナーたちとのコラボを行った。
とかくパリやミラノのコレクションでデザイナーズ・ブランドやラグジュアリー・ブランドが発表するトレンドをいち早く商品企画に反映させているのではないかと指摘されることの多いファストファッションとしては、まさしくそのデザイナーたちとコラボすることで、自らの「潔白」を証明することができるとも言える。一方、デザイナーからみれば、ファストファッションの流通に自らのブランドを乗せることで知名度のアップが図れるというメリットがある。さらに経営が厳しいデザイナー企業にとって、H&Mが支払う巨額のコラボ料は魅力的なボーナスかもしれない。双方にとってコラボは実に幸福な結びつきに見える。
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08年9月に日本初上陸したH&Mは、翌年の原宿店オープンに際して「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」とのコラボを発表した。ファッション業界で最もインディペンデントな存在と思われた「コム デ ギャルソン」だけにこのコラボは驚きをもって迎えられた。オリジナリティの最後の砦として高く評価していた「コム デ ギャルソン」に対して失望したという反響もあった。あるジャーナリストに対してデザイナーの川久保玲は「私はデザイナーであると同時に数百人の社員を雇っている企業の社長でもある」と話し、「二度とファストファッションとのコラボはやらない」と言ったというが、付言すればその後「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「エルメス(HERMES)」などのラグジュアリー・ブランドとのコラボは行っている。
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「コム デ ギャルソン」のような孤高の存在は別格にしても、大半のブランドにとってコラボは「百利あって一害なし」である。自らのブランドに新しい光を当てることになる意外な取り組みであればあるほど効果は高い。お互いにとって、ある意味で新しい商品があっという間に生まれてくるのである。加えて広告やプロモーションの材料として、これほど魅力的なものは滅多にない。
ちょっと意地悪く言えば、今の時代はそのブランドの企画スタッフだけで新しい商品を提案するのはもはや至難のワザになっているのだ。誰が発明したのか、このコラボという魔法は実に魅力的な難局打開法だったようだ。このコラボと並んで、新しいデザインが生まれにくい時代に編み出された有力な手法が「リミックス&サンプリング」だった。もともと音楽業界で、過去のヒットナンバーを現代によみがえらせる手法として生まれたものだが、DJという存在が現れ、当たり前の手法になっている。ファッションの世界でも特にラグジュアリー・ブランドにおいては自らのアーカイブを「伝統と革新」の名のもとに有力デザイナーを起用して現代に復活させるのはきわめて効果が高いのは証明されている。一方他ブランドのアーカイブや過去のデザインを巧妙にサンプリング&リミックスしている例もあるが、「盗作」としてトラブルになるケースもある。意匠の著作権が確立されていないファッション業界では、「リミックス&サンプリング」は少々危ない難局打開策で、万能というわけではない。
「ジバンシィ(GIVENCHY)」2015-16年秋の広告ビジュアルに登場したドナテラ・ヴェルサーチ(Donatella Versace)
これに比べれば、互いに納得ずくの契約書で結び付く「コラボ」の優秀性が理解してもらえるだろう。最近目を疑ったのは「ジバンシィ バイ リカルド ティッシ」の今秋冬広告に「ヴェルサーチ(VERSACE)」のデザイナであるドナテラ・ヴェルサーチ(Donatella Versace)を起用したことだ。ライバルと見なされているブランドでもこうしたある種の共同戦線(コラボ)を張る時代なのである。もはやライバルをたたきつぶして生き残る時代ではない。一丸になってファッション不況に立ち向かわなければならないというところだろうか。
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※文中の肩書き・事実関係などは2015年9月7日当時のものです