昨秋、ビームスを卒業した濱中鮎子・前「レイ ビームス(RAY BEAMS)」ディレクターが、個人でブランドを立ち上げることが分かった。ブランド名は「ウーア(UHR)」で2018年春夏のデビューを前に、10月17~20日に東京・代官山で初の展示会を行う。杉綾織りのテープをアイコン的に使い、ひもを結ぶことで独特のフォームやフィット感などを演出できる、素材にもこだわったハイカジュアルなウィメンズウエアを約30型用意した。
ボリュームや着こなしを楽しむ、“着る人に委ねる”服「『ウーア』というブランド名は、その響きと文字からピンときたもの。ドイツ語で“時間”“時刻”など“時”を指す単語でもあります。洋服と時間はとても密接なもの。思い出になったり、その服を見てその時のことを思い出したりもする大切なものだと思います。時代にとらわれすぎず、流行に流されず、マイペースに服やスタイルを生み出したいという思いを込めました」と濱中「ウーア」ディレクター&デザイナー。
新卒でビームスに入り、販売スタッフを経てウィメンズのプレスとなり、スタイルアイコンとしてさまざまなファッションメディアにも登場した。2013年からは「レイ ビームス」のディレクターとしてセレクトとオリジナルの融合を監修。カジュアルとモードのはざまを行き来する、ヌケ感がありつつも印象的なオリジナルブランド「RBS」を立ち上げた。そんな彼女が新たに提案したい服とは?
「モード、カジュアル、コンサバなど多くのブランドがある中で、どこにも属さない、あえて言えばハイカジュアルというジャンルなのかなと思います。完璧なものを作るというよりは、ハンガーにかかっていただけではなんてことない、着る人の顔や体があってこそ完成する“不完全な服”であり、着る人に委ね、着た瞬間その人のものになるような服を目指しています。だからこそ、良い素材を使い、多彩なボリュームバランスを楽しんでもらったり、歩いた時の足さばきの美しさを感じてもらえるような服を作りたい」。
ライフスタイルが多様化する中で、自身も含めてファッション、そして服への向き合い方が変わってきた人々は多い。「ライフスタイルというよりも、“ウェイ・オブ・ライフ(WAY OF LIFE)”を考えている人が増えていますよね。それと同時に、服の選び方も変わってきています。私自身、みんなと同じものが着たい時期、あのブランドが欲しいという時期などもありました。ファッションも人生もいろいろなことを経験したうえで、『私はこの服が着たい!』と選んでもらえるような服になればうれしいですね。そして、その人のクローゼットに入ったときに特別の存在になりたい。主張するというより受け入れられる服になりたい。そういう意味では、強い服、タフな服なのかなとも思いますね」。
昨秋ビームスを辞め、外部ブランドのPRやディレクションを業務委託の形で請け負う一方で、独力でブランドを始めることを決めたのは、今春のことだ。ビームス時代の同期で経理やプレスなどを担当し、のちに三井不動産系のSC運営などを手掛けた女性にマネジメントを託し、二人三脚で準備を進めている。
「自己資金で始めたので資本力もありませんから、疲弊しないモノ作りをと思っています。ファーストシーズンは型数を絞り、コーディネートを考えながら30型を用意しました。一番最初に作りたいと思ったのは、ウールトロのいい素材をたっぷり使ったボトムスでした。ベテランのパタンナーさんのアトリエに入り浸り、いろいろなことを学ばせていただきながらモノづくりに取り組みました」。素材選びについては、「『普通、そういう使い方はしないよ』と言われることもありましたが、素材とデザインに対する経験や既成概念がないのという私の弱みを、逆に強味として生かせれば。真面目な素材を、力を抜いたデザインに落とし込むアプローチを特徴の一つにしたいと思います」。
まずは世界観を伝えたいと、SNSをスタートする一方で、現在ニューヨーク在住のフォトグラファー、小浪次郎を起用し現地でビジュアル撮影を行った。「パキっと明るいのではなく、内省的な、女性なら誰もが持っているダークが部分までうそ偽りなく表現する彼の写真が好きなんです。加工も撮り直しもできない、手間暇のかかるフィルムであえて撮影してくれて、ブランド名にも通じる“時を閉じ込める”ような、日常の中にあるドラマティックな服を表現してもらいました。強くて、凛としていて、でも、ガチガチした硬さではない、私のストーリーや女性像をうまくビジュアル化してくれました」。