パリコレ期間中には、ショーを行っていない日本のデザイナーズブランドも多く展示会を開いていました。私たち「WWDジャパン」取材班は従来、東京で開催される展示会を訪れるので、パリコレ中は現地で行われているファッションショーやプレゼンテーションを主に取材してきました。しかし、今季は「アキラナカ(AKIRANAKA)」をはじめとする日本を拠点にする数ブランドの海外展示会も訪れました。
ブランドスタートから9年目の「アキラナカ」は、初の海外展示会をパリの北マレ地区で開いていました。マレ地区はショールームやギャラリーが多い地域。同時期、周辺では数々のブランドが同様にギャラリーなどのスペースを借りて展示会を行っていて、気になったらふらっと入ることができてしまいます(実際、店と間違えて入ってしまう一般の人もいるようです)。一方、「アキラナカ」は少し異なり、会場は鍵の掛かった扉を抜けた、奥まったビルの2階。完全予約制なので、看板も張り紙も見当たりません。本当に“目的買い”のバイヤーだけが訪れるセールスの展示会でしたが、数シーズン前から、ナカ アキラ・デザイナーからパリ展示会への意気込みを聞いていたため、バイヤーが来る前の朝一に会場へ潜入してきました。
ナカ・デザイナーはショールームと契約をせず、営業は個人で「ワンダ ナイロン(WANDA NYLON)」や「ヴィカ ガジンスカヤ(VIKA GAZINSKAYA)」などの気鋭ブランドのセールスを担うオルガ・ウラジミール(Olga Vladimir)さんとタッグを組んでいます。会場にはナカ・デザイナーと、オルガ、そしてモデルの3人のみ。2部屋を使い、ブランドの世界観を見せていました。入ってすぐの部屋では、壁3面を使ってラックに新作を掛け、テーブルではルックブックとジュエリーコレクションを紹介。もう一つの部屋にはナカ・デザイナーが「(“売れる”ということだけを考えた商品ではなく)コマーシャライズせずに、クチュールライクに仕上げた」という、木の織機を使った風合いのある花柄のカットジャカードのドレス、パワーショルダーのジャケット、ジャケット風ケープ、ふくらはぎに“フィン”を付けて仕立てたデニムなど、渾身の商品が並びます。「素直に作りたいものを作った。初めてブランドを知る人に、『アキラナカ』というステイトメントを伝えるため、本当に自分が美しいと思うものを表現した」とナカ・デザイナー。
いずれも、「アキラナカ」の得意とする素材や技法を生かして、これまでのエッセンスを残していながら、「今までの『アキラナカ』になかった!!」という斬新な挑戦もあり、大人っぽいエレガンスに遊び心が垣間見られるものでした。定番のリブニットを使ったロングジレは、背中がピンク、イエロー、グリーンとカラフルな配色だったり、一見シンプルなシャツにはボーンを入れて立体的なシルエットを構築したりと、“リアルに着られる”と“チャレンジング(着こなす難易度がやや高め)”のバランスが程よいのです。また、大きなネコの顔とザリガニが大胆に描かれたブラウスもユニークでした。絵柄はブランドのグラフィックチームが手掛けたオリジナル柄で、「僕はアントワープでファッションを学んだので、シュルレアリスムを感じられるデザインが好き。これは温かく柔らかいネコと、冷たくて堅いザリガニの対照的なものをあえて合わせたもの」とナカ・デザイナー。ネコはジュエリーとしても登場しています。
「アキラナカ」はパリ展を4日間開催し、朝から晩まで予約をぎっしり受け入れ、「新規開拓ができた」と満足気な表情で語っていたナカ・デザイナー。日本のバイヤーとは異なる意見も新鮮だったといい、特に、その場でピックアップして買い付けをしたバイヤーから「(私が買い付けた)この商品の内容で、『アキラナカ』の世界観が伝わりますか?」と聞かれ、うれしかったそうです。今後もプレ・コレクションを含めて年4回(春夏、プレフォール、秋冬、プレスプリング)、パリで継続的に展示会を行っていくそうです。デザイナーのブランドに対する自信や情熱、“本気度”が強く伝わる30分間の取材でした。