ピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団(THE FONDATION PIERRE BERGE-YVES SAINT LAURENT)は10月14日、モロッコ・マラケシュのイヴ・サンローラン美術館を初公開した。一般公開は10月19日から。マラケシュの美術館はマジョレル庭園に隣接。マジョレル庭園はサンローランとベルジェの2人が1980年に購入・保全し、現在では年間80万人が訪れる観光スポットとなっている。
パリのイヴ・サンローラン美術館は9月28日に初公開され、10月3日に一般公開された。イヴ・サンローラン美術館の開館計画は、サンローランの生涯のパートナー、ピエール・ベルジェ(Pierre Berge)が同財団を立ち上げた2004年当時からスタート。ベルジェは「02年にイヴ・サンローランが引退した時に、思い出をプロジェクトの形にしようと決めた」と語り、マラケシュについては「経験したことのない一目惚れだった」と、その地を初めて訪れた時のことを振り返っている。自身のライフワークとして同プロジェクトを精力的に進めていたが、長い闘病の末、亡くなったのは開館目前の9月8日、86歳だった。美術館開館目前の訃報だった。
美術館のデザインは「バルマン(BALMAIN)」や「イソップ(AESOP)」の店舗デザインなども手掛けるスタジオ・コー(Studio KO)によるもの。ベルベル美術館の上のスタジオの改装やベルジェの別荘などのデザインを手掛けたスタジオ・コーの建築家、カール・フルニエ(Karl Fournier)とオリヴィエ・マーティー(Olivier Marty)が今回もデザインを手がけた。美術館は周囲の街並みと同じような色と素材で建設され、街の景観に溶け込むようにデザインされた。マラケシュの美術館は約4000平方メートルで、常設の展示スペース、企画展示スペース、研究図書館、カフェ、150席の講堂などが入る。
フルニエは、「現代的であると同時にモロッコ的な美術館にしたいと、ベルジェの要望は明確だったが、その二つを調和させることは矛盾しているように思えた。だが、霊廟のようなものではなく、イヴ・サンローランに捧げるもの。だがオープンな建物にしたいという一言で、道が拓けたよ」と語る。
美術館エントランス前の円形の中庭では“YSL”のロゴが来場者を迎え、エントランスホールには、青緑色のエナメルレンガで覆われたパティオの前に、サンローランとベルジェが一緒に購入した最初の作品で、ベルジェが売りに出さなかった唯一の作品である鳥の彫刻が展示されている。
最初の展示スペースでは1965年のサンローランによるモンドリアンのドレスが、手紙や写真とともに展示され、黒が基調のメーンホールでは、白いスーツを着たサンローランがひときわ輝いて見える。内装を手掛けたクリストフ・マーティン(Christophe Martin)は、「黒い壁を選んだのは、壁が存在しないかのように見せることで、作品を闇の中に浮かび上がらせ、まるでサンローランの頭の中をのぞいているように見せたかったから」と話す。
また、展示作品を構成したのは、「サンローラン」のプレス・オフィサーを40年以上務めたドミニク・デロチェ(Dominique Deroche)。5000点以上のアーカイブの中から、イブニングガウンを中心に、ジャンポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)のインスピレーション源となった1967年のバンバラドレスやジョルジュ・ブラック(Georges Braque)へのオマージュとした白のドレスなど、計50点が選ばれた。
一定期間で入れ替わる企画展の初回は「モロッコのジャック・マジョレル(The Morocco of Jacques Majorelle)」。ジャック・マジョレルの絵画作品約30点や、ブランドのクチュール30周年を記念し、アンドレ・ロウ(Andre Rau)がカトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)をマラケシュで撮った作品などの展示で、18年2月6日まで開催する。