若手発掘の場として知られるロンドンでは今、若手デザイナーのクリエイティビティがますますの盛り上がりを見せている。ミレニアル世代の自由なクリエイションは、アバンギャルドなデザインで衝撃を与えたアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQeen)やジョン・ガリアーノ(John Galliano)が活躍した1980〜90年代のリバイバルを予感させる。当時と異なる現代の特徴は、各デザイナーがより“リアル”の表現を追求している点だろう。屈指の名門校ロイヤル・カレッジ・オブ・アートやセント・マーチンズ美術大学でテクニックを学んだ実力者がしのぎを削るこの地で、次世代を担っていくであろう有望株4ブランドのデザイナーを直撃した。第1弾は、若手デザイナーの登竜門ファッション・アワード(Fashion Awards)のブリティッシュ・エマージング・タレント(British Emerging Talent)部門に2年連続ノミネートされ、今年度のLVMHプライズのファイナリストにも選出された「モリー・ゴダード(MOLLY GODDARD)」。ほぼ手作業で作られるガーリーなドレスは、毒気な魅力と退廃的な美しさを放つ。弱冠27歳の彼女は、ファッションを通して“フェミニン”の再考を促しているようだ。
──フリルやタフタ、チュールを多用した洋服が多いが、ブランドを単にフェミニンと分類するのは野暮な気がする。イメージする女性像は?
モリー・ゴダード「モリー・ゴダード」デザイナー(以下、モリー):力強くて大胆で愉快で自信に満ちた女性。フェミニンという言葉は嫌いではないけれど、私の洋服を見てプリンセスのような、助けを必要としているか弱い女の子をイメージしてほしくはないわね。
──あなたが考えるフェミニンの定義とは?
モリー:明確な定義付けをするのはまだ早いかもしれない。ただ、「おとぎの国へようこそ!」っていう一辺倒なイメージを覆せるのか、試したいと思ってるわ。ピンクのフワフワしたドレスを着ていてもタフでいられるし、女の子らしいとは限らない。着る人の個性が混じり合うことで、それぞれのフェミニンが浮かび上がるっていう考え方が好き。
──新しいコレクションに取り掛かる時、何からインスピレーションを得る?
モリー:まずは自分自身や友人、母、妹が何を着たいかを考える。それはコレクションを形成するうえで土台となるとても重要な部分。それからインスピレーションを求めて、図書館へ行ってたくさんの古い書物や雑誌に手当たり次第目を通すの。特に、昔の「ザ・フェイス(The Face)」、「i-D」、イタリア版「ヴォーグ(VOGUE Italy)」がお気に入り。ビンテージショップで古着に触れたり、道を歩いている人の洋服を見て触発されることもある。特に生地が何かを呼び起こしてくれることが多い。生地を見ただけで、どんなピースを作りたいか明確に浮かぶ時もあるわ。制作する時も生地を主軸に考えているから、面白そうな生地を買ってきて実験的に作っていく。デザイン画をある程度描いたとしても仮でしかなくて、実験を繰り返していく中で服が完成するの。
──フーディ、ジーンズ、スニーカーを合わせて、着崩すスタイリングが目立つ。ショーに登場するのは普段着とは言い難いピースが多いが、日常着として着ることを提案している?それともショーピースとコレクションピースで分配している?
モリー:確かに、すごくボリュームがあったり透けていたり、そのまま街を歩くわけにはいかなピースも多いわね。私は愉快で楽し気なショーピースを制作するのが好きで、ファッションが持つ空想的な側面はとても重要だと考えているけれど、考え方次第で着やすい服に転換することも可能よ。どんなふうに着こなすかはその人次第だけれど、決して衣装を着ている気分にはなってほしくないわ。オフィスやパブへ行くのに気軽に着ていけるような、ベーシックアイテムも制作している。ファンタジーとビジネス、そのバランスを取ることもクリエイションの一つでワクワクする挑戦でもある。
──あなたにとって、洋服と衣装の違いとは?
モリー:衣装は着る人を他の誰かに変貌させるもの。洋服は着る人の人間性の延長線上にあるもの。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける