ストーリーは過去と現在と小説が並行して展開される。特に洗練された現在の上流階級的生活シーンのトーンと、トムの出身地でもあるテキサスが舞台の荒涼とした小説シーンのトーンのコントラストは、前作「A SINGLE MAN(シングルマン)」でトムが採用した技法を彷彿とさせる。前作ではパートナーを亡くした主人公がときめきを感じた瞬間だけ画面が色づくという、非常に分かりやすい、悪く言えばあからさまな演出だったが、今作はより複雑で、パワーアップしていた。「トーンの一貫性が私にとっては重要で、スタイリスティックに捉えられたイメージが、音楽やサウンドデザインと相まって一貫した世界像を生み出してくれる」と語るトム。「タイム(TIME)」紙はその映像美を「すべてのショットは、ミリ単位で調節されたファッション写真の如く完璧なルックを備えている」と評している。
また、劇中で使用されたアート作品にも注目だ。トムの「すべてのアートワークはオリジナル作品がいい」という意向により、本物を使用している。一部トムの個人コレクションも含まれている。ジョン・カリン(John Currin)の「Nude in Convex Mirror」やジェフ・クーンズ(Jeff Koons)の「Balloon Dog」、ダミアン・ハースト(Damien Hirst)の「Saint Sebastian,Exquisite Pain」などが登場し、それぞれのアートの意味とストーリーの連動性の高さには驚かされる。だが、その中でオープニングの強烈なビデオ・インスタレーションと、“REVENGE(復讐)”と巨大なキャンバスに描いたコンセプチュアルアートだけは映画のために制作されたもので、物語の中で大きな役割を果たす。