次世代を担うロンドンの若手デザイナーへの直撃インタビュー企画。第3弾は2015年にLVMHヤング・ファッション・デザイナー部門を受賞した、ポルトガル出身のデザイナー夫婦による「マーケス・アルメイダ(MARQUES' ALMEIDA)」。二人はセント・マーチンズ美術大学在学時、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)に才能を評価されたことで早くから注目されていた。09年のブランド立ち上げ以来、多様性・自由・希望など前向きなテーマを発信し続けてきた二人がブランドを通して最も成し遂げたいことは、多くの女性の“挑戦を後押し”することだと語る。ビジネスパートナーであり夫婦である二人に、素朴な疑問も投げかけてみた。
──共に故郷のポルトガルを離れて、今はロンドンが拠点。デザインや働き方において、自身のルーツが反映していると感じることはあるか?
パウロ ・アルメイダ(Paulo Almeida)「マーケス・アルメイダ」デザイナー(以下、パウロ):規範に従って仕事に向かう姿勢かな。僕らはクリエイティブであると同時に、責任感を強く持っていると自負している。ポルトガルの人々は真面目で地に足をつけた考えを持ち、情熱に身を捧げる傾向にあるんだ。華やかな見た目の良さよりも、そういう本質的なところはとても大切。
マルタ・マーケス(Marta Marques)「マーケス・アルメイダ」デザイナー(以下、マルタ):常に、完成形にプラスアルファの作業を加えて、さらに昇華できることを目指している。真摯に取り組む謙虚な側面は、私たちの目的であると同時にポルトガル人らしい部分かもしれない。
──仕事と家庭の両立は大変?
パウロ:それは頻繁に聞かれる質問だよ(笑)。僕らにとっては何も問題なくて、それが当たり前なんだ。仕事、家庭どちらにも抱えている問題を持ち込むことはあるし、たくさんけんかもする。
マルタ:仕事と家庭の境界線は曖昧ね。仕事を仕事と感じていないとも言える。なぜならとにかく楽しくて情熱を注ぎたいことだから。
──これまでのショーで、典型的なモデルではなく個性的な一般女性を起用してきた意図は?
マルタ:見た目がさほど変わらない長身の細いモデルは、私たちの“リアル”な顧客を投影していない。ショーを見た人が「これをもし自分が着たら」とか「私も着たい」と想像してワクワクさせられるような“リアル”さが必要だと思うの。長身で細いモデルを起用することが悪いという意味では決してないけれど。
パウロ:ショーではインタラクションな作用があるし、世界観を作って惹きつけるための一つの手段だけど、だからといって洋服を見せるのだけが目的ではない。奇抜なルックもあるかもしれないけれど、ブランドのコンセプトを理解し共鳴する人は僕らの“挑戦”を受け入れてくれる。コレクションピースとコマーシャルピースを分けるという考え方がそもそも嫌いだし、過去のコレクションではショーに出たアイテムは特に売れる傾向にあるよ。
──これからはどんなチャレンジをする?
パウロ:ルックだけではなく、生地やカッティング、シルエットなど全てにおいて毎シーズン何かしら挑戦をして、課題をクリアしていく。「マーケス・アルメイダ」の世界において、クリエイティブとビジネスの両方を成長させてインフラを築きあげていくことが、立ち上げからの一番の挑戦だね。そんな僕らの洋服が、着る人の挑戦を後押しする存在であることを願っている。
マルタ:半年前に娘を産んでから、子育ては最もクリエイティブな作業だと感じるし、毎日が挑戦よ。実は去年、日本に行く計画を立てていたのだけれど、妊娠が分かってキャンセルしたの。娘がもう少し大きくなったら訪れたいから、数年後に訪日できることを楽しみにしているわ!
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける