次世代を担うロンドンの若手デザイナーへの直撃インタビュー企画。締めくくりとなる第4弾は、ウクライナ出身のナターシャ・ジンコ(Natasha Zinko)。彼女は弁護士からファインジュエリーデザイナーへと転身し、現在はプレタポルテのデザインも手がけるという異例の経歴の持ち主。祖国ウクライナの伝統的な装飾の手法に、旅から得られるインスピレーションを組み合わせ、多文化主義のハイブリッドなコレクションを展開する。弁護士のキャリアを捨ててファッション業界へ飛び込んだという経歴からも分かる強い好奇心と大胆な性格は、カラフルで遊び心溢れる洋服に置き換えられる。
──なぜ、弁護士のキャリアを捨てファッションの勉強を始めた?
ナターシャ・ジンコ「ナターシャ ジンコ」デザイナー(以下、ナターシャ):オデッサ(ウクライナ南部の都市)の学校を卒業した後、弁護士として働き始めたけれど、私の情熱を駆り立てることはなかったわ。ファッションが好きで慣れ親しんでいたから、その世界に飛び込んでみようと思ったの。ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アーツに出願し、その後セント・マーチンズ美術大学に編入してファインジュエリーのデザインを学んだ。弁護士とは違い、デザイナーの仕事は常に挑戦的で、情熱を持って取り組んでいるわ。
──ファインジュエリーと洋服、どちらのデザインをするのが好き?
ナターシャ:毎シーズン、ファインジュエリーのデザインからスタートして、それに関連付けて洋服のデザインに取り掛かる。相互作用でどちらも欠かせない存在ね。
──インスピレーションはどこから?
ナターシャ:アート作品や旅、あとは日常生活から。祖国のウクライナも私のインスピレーションの源よ。2018年春夏コレクションに関しては、ウクライナの伝統的なハンドペイントによるフラワープリントのスカーフが着想源になったわ。
──現在拠点としているロンドンからどんな影響を受けた?
ナターシャ:ロンドンは常にインスピレーションを与えてくれる街。色彩豊かなコレクションがブランドのコンセプトで、ロンドンの並外れて美しい色とりどりの庭園や花々が、各シーズンのカラーを構成してくれる。クリエイティブなプロセスにおいて色はとても重要よ。ピンク、パープル、グリーンがお気に入りの色で、カラフルであればあるほど惹かれるわ!8年前に日本を訪れて、独特の色彩にとても感動したの。日本の色彩美は、養ってきたものと本来備わっているものとの両方を兼ね備えていて、特別に崇拝しているの。ただ見栄えがよいだけの“ラグジュアリー”とは違った価値観で本質的な美学があると感じる。2018年プレ・スプリング・コレクションでは日本の桜から着想を得て、ハンドクラフトの刺しゅうを取り入れたの。日本製のおもちゃも好きで、コレクションしているのよ。
──カラフルであるという以外に、ブランドのシグネチャーを挙げるとしたら?
ナターシャ:カフタンとデニム。破壊、再構築を繰り返しながら継続的に展開しているわ。それら以外は常に新しいものにチャレンジしている。予想できない素材同士の組み合わせや、いろいろなものがぶつかり合って新たな概念を生み出すのが好き。着る人にも、個々の着こなしを楽しんでほしい。唯一の譲れないルールは、自分自身が身につけないアイテムはデザインしないということ。私がリアルに着たいと思えるものだけを、自信を持って届けたいから。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける