ルミネやパルコなどのファッションビルの関係者が、いま一番注目しているブランドがある。
「ファッションビルや百貨店などの商業施設から150件のオファーがあった。149件を断って名古屋パルコに出店した」——こう語るのは、弱冠29歳でEC発ウイメンズブランド「エイミーイストワール(EIMY ISTOIRE)」を率いる藤井亮輔3ミニッツ執行役員だ。9月15日にオープンした名古屋パルコで、初日に700万円を売り上げ、名古屋パルコ西館の単日売り上げ記録を更新した。3ミニッツはその前週にも「エトレトウキョウ(ETRE TOKYO)」をルミネ新宿2の2階にオープン。初日のプレオープンで400万円を売り上げ、同フロアの記録を更新した。インフルエンサーを起用したブランドはこれまでも少なくなかった。なぜ3ミニッツのブランドは成功するのか。ECとリアルを融合し、新しい勝ちパターンを構築しつつある「エイミーイストワール」とは何者なのか。キーマンを直撃した。
「エイミーイストワール」はインフルエンサーのMANAMIを起用し16年7月にECでスタート、今年2月にはルミネエスト新宿に1号店をオープンした。年商は初年度で10億円、7割をECで稼ぐ。藤井執行役員は高校卒業後、バロックジャパンリミテッドとマークスタイラーで経験を積んだアパレル畑だが、3ミニッツを選んだ理由を「実は『エイミーイストワール』は3ミニッツに入る前から準備していて、出資まで集めていた。宮地(洋州ミニッツ創業者兼前CEO)さんに誘われて、急きょ合流を決めた」という。3ミニッツは宮地前CEOが14年9月に起業。インフルエンサーを起用したデジタルプロモーションや動画制作などを手掛けていた。「決め手になったのはIT企業だったこと。雑誌に出稿し全国に多店舗展開するという従来のやり方ではなく、『エイミーイストワール』では新しいことを試したかった」という。
「エイミーイストワール」の最大の特色は“PRチーム”の存在だ。組織の名称こそファッションブランドらしいものの、東京大学出身のデータアナリストをリーダーに、SNSから情報収集・分析する専任スタッフ4-5人を抱える。新作の情報をいつ、どこで、どう見せるかまでを、PRチームがSNSの情報を収集し、分析して決める。「モノも情報も溢れているからこそ、情報量と商品量をコントロールして、戦略的に熱狂を生む必要がある。僕らは原則として完売しても追加生産をせず、“買いたいのに買えない”をどれだけ作れたかを重視している」。
ファッションに再び熱狂を
ECで言うところの“買いたいのに買えない”の指標の一つが、追加発注リクエストという仕組みだ。「エイミーイストワール」は9月の自社EC売り上げは約1億円。対して、追加発注リクエストは1億5000万円分あった。「この1億5000万円こそがブランドの見えない重要な資産になる。従来のファッションブランドだったら、これをニーズと捉えて追加発注したり、店頭に置いたりする。でも僕らは原則、追加生産はしないし、発売日も解禁しないことも多い。そうすることでユーザーは僕らのウェブサイトを常にチェックしてくれるし、欲しいというテンションを保ち続けてくれる」。フリマアプリ「メルカリ」で検索すると「エイミーイストワール」の服は実際に定価と同じか、それ以上の価格で取引されている様子がうかがえる。
2期目になる今期は売上高20億円を計画。今後数年は倍々ゲームで売り上げを伸ばす青写真を描く。リアル店舗の出店は、今後も年に1〜2店舗で、その分リアル店舗はブランドの価値を高める場所として、内装や什器に競合のアパレル店舗の2〜3倍を投資している。ファッションビジネスは根本から変わった、というのが藤井執行役員の持論だ。「今後もEC化率は全体の7割を維持する。ECは利益率が高いので、いいお店・いい人材・いい商品を維持し続けられる。しかもデジタルなら、“ユーザー”のリアクションが全て可視化できる。そもそも全ての決定権はユーザーが持っていて、商品の見せ方・売り方に対して、SNSから得られた情報をもとにどうするべきかをジャッジする」。
従来型のファッションビジネスの出店ありきという考え方こそが、ブランドや従業員に余計な大きな負担になっているという。「もし普通だったら、これだけ売れたらガンガンいけってなりますよね?でも、ブランドの価値を本当に高めようと思ったら、多店舗展開に意味はない。利益率が低いと本部のコストも絞るため、地方の郊外SCのお店だとケアができなくなる。『エイミーイストワール』はSNSで求人を出すだけで、1000人の応募がある。倍率は1%以下ですよ。ブラントの価値が高ければそれだけ効率的にプロモーションもできる」。「エイミーイストワール」の販売員はミニマムで月1万円、最大で月5万円の美容手当を出しているという。「ファッションの販売員ならきれいにしていたい、オシャレにお金をかけたいというのは当たり前のことのこと。基本的にお金の使いみちは問わない。今後はヘアサロンやネイルサロンと提携し、無料サービスなども実施したい」。
藤井執行役員には忘れられない光景がある。前職のマークスタイラー時代、「エモダ」の新商品の発売日の店頭に立ち合った時のことだ。お客の若い女性たちが店舗の中でぎゅうぎゅうになってそこら中でアイテムを引っ張り合い、取り合っていた。「ものすごい熱気で、ファッションには人をこれだけ熱狂させる力があるんだって体が震えた。今アパレルは大変だって言われたり、若い人はファッションに興味がないなんて言われるけど、それは違う。僕は、新しいやり方でその熱狂を再び呼び覚ましたい」。