ファッション

デジタル時代のメディアの役割、業界の大御所ティム・ブランクスの見解から考える

 10月10日、ロンドンのサラバンド・フォンダシオン(Sarabande Foundation)で開催された、ティム・ブランクス(Tim Blanks)のファッション評論のカンファレンスに参加した。ファッション業界で最も影響力のあるジャーナリストの一人で、キャリアのスタートはカナダの「ファッション・マガジン(FASHION Magazine)」の編集者から。約8年編集者としての経験を積んだ後、テレビ業界に転身し「ファッション・ファイル(Fashion File)」という番組で20年間ホストを務めた。2006年からは、当時米コンデナスト傘下のウェブマガジン「スタイルドットコム(Style.com)」の看板ジャーナリストとして活躍。15年「スタイルドットコム」の終了を機に、イギリスを拠点にするファッションメディア「ビジネス・オブ・ファッション(Business of Fashion)」に移籍した。現在、ブランクスは総合編集兼ジャーナリストを務めており、業績も好調のようだ。

 SNSの出現により、リアルタイムで情報が拡散される今、ファッションに影響を与えるメディアのあり方は急速に変化している。雑誌、テレビ、ウェブで経験を積み、40年近くも業界をけん引しているブランクスは「それぞれのメディアには役割と強みがある」と分析する。鮮度の高いニュースをタイムリーに発信できるウェブは、「情報提供という目的においては、今後さらに進化する」と話し、ウェブの強みを生かして差別化を図るための見解を「現代はデジタル時代の序章にすぎず、攻防はさらに激しくなるだろう。勝ち残るためには、スピードを保ちつつ良質なコンテンツを提供しなければならない。デジタル時代の変化を嘆く声もあるが、“変化しない”時代など訪れない。何かに固執して時代の変化に対応できないことを、『デジタル時代』を言い訳にしてはいけない」と語った。ファッションショーの在り方については、「ブランドの立場からすると、ショーの様子を表現する窓口がテレビや雑誌だけではなくウェブ、SNSに増えたことは喜ばしいこと。ショーの限られた席に誰を招待するのか。ブランドも影響力の大きいメディアを優先する。僕は、実際にショーを見に行くブランド数が変わっていないけれど、以前は1日12ブランドのショーのレポートを書いていたのが、現在は3〜4ブランド程度だ。スピードが求められる分、こちらもふるいに掛けている。たとえインフルエンサーがSNSで写真や映像を流したとしても、文字がなければショーの様子を十分に伝えたことにはならない。オリジナルの視点で情報を届ける僕の役目は、時代やメディアが変わっても今のところ不変だ」と締めくくった。

 明瞭で辛辣な意見だ。メディアの在り方は国によっても捉え方が違うため、うのみにすることはできないが、良質なコンテンツを提供することは時代にかかわらず、メディアを運営する上での基本だ。ここで考えたのは、“良質”とは何かということ。良質とは必ずしもブランドやデザイナーに寄り添うことで得られるものではなく、より良質なコンテンツを紳士に実現しようとすれば、ときには彼らにとって厳しい批判になることもあるはず。私たちメディアをあずかるジャーナリスト、編集者の覚悟が問われている。
 

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