米国の繊維大手インビスタ(INVISTA)は10月28日、スパンデックス「ライクラ(LYCRA)」、吸汗速乾ポリエステル「クールマックス(COOLMAX)」を始めとする衣料向けの繊維事業を、レナウンを傘下に持つ中国の山東如意グループに売却することで、同意したと発表した。買収金額は未公表だが、数千億円単位になると見られ、この数年で最大規模のテキスタイル関連のM&Aになる。
対象はポリエステルの繊維原料、ナイロンやスパンデックスの原糸工場、研究開発部門、販売、管理部門で、総人員は全世界3000人になる。来年中ごろに手続き完了を目指す。中国の山東如意は、ルーツはウールの紡織大手だが、日本のレナウンを傘下に持つなどアパレル事業も展開しており、ウールと合繊の紡織からアパレルまでを垂直統合した、繊維・アパレルのコングロマリット企業になる。
売却する事業は「ライクラ」「クールマックス」の他、軽量保温の中綿素材「サーモライト(THERMOLITE)」、スパンデックスの汎用ライン「エラスパン(ELASPAN)」、コットン調のナイロン素材「サプレックス(SUPPLEX)」、ポリエステル原料のPTMEG、それらに関わる工場や研究開発、販売部門など。
インビスタは、米国最大の非上場企業の一つであるコーク・インダストリーズ(KOCH INDUSTRIES)の傘下で、2004年にコークが化学大手のデュポン(DUPONT)から繊維部門を44億ドル(約4972億円)で買収後、自社の繊維事業と再編し、インビスタとしてスタートしていた。当時84億ドル(約9492億円)だった売上高は、繊維原料への巨額の設備投資などを行っており、直近では120億ドル(1兆5600億円)に達し、従業員1万人を抱えている。
デュポンは、現在世界の全繊維生産の6割を占めるポリエステル繊維を、世界で初めて工業化した企業だ。そのポリエステル繊維事業が、継承したインビスタから山東如意に移管されることは、世界の繊維・アパレル事業が国境と業態を越えた新たな再編時代へ突入することを示す。山東如意は「ライクラ」「クールマックス」など繊維では数少ないグローバルブランドを手に入れ、天然素材の主力であるウールと合繊、そしてアパレルまでを垂直統合する、新たな繊維とアパレルのコングロマリット企業になる。
なおインビスタは世界最大手の一角を占めるナイロン繊維原料のナイロン66と強力ナイロン素材「コーデュラ(CORDURA)」、カーペット素材の「アントロン(ANTRON)」、また売却したポリエステル繊維原料の1.4ブタンジオールの知財権については引き続き保有する。