代官山「CAF賞」作品展会場の様子
代官山「CAF賞」作品展会場の様子
10月30日夕方に行われたスタートトゥデイ決算会見の会場には、スタート前から少し緊張した空気が漂っていた。前澤友作・社長が自身のツイッター(@yousuck2020)で「僕も登壇して、送料自由の件と、プライベートブランド(PB)の件についてお話しします」とコメントしたからだ。PBローンチを宣言してから約2年、これまで社長本人が公の場でPBの説明をすることがほとんどなかっただけに、「ついに、具体的な方針が発表される」と誰もが期待をしていた。
「ラコステ(LACOSTE)」のトップスにデニムという出で立ちで説明に立った前澤社長は冒頭、「ついに時価総額1兆円を達成して、感謝の気持ちでいっぱいです。まさか会社を設立した約20年前には1兆円に到達するとは思いもしなかったわけで、こうなった以上、社会的な責任もあり、一起業家としての責任もあり、1兆円といわずもっと上を目指してやっていきたい」とあいさつ。PBの説明では全容は明らかにならないまでも、前澤社長は“超ベーシックアイテム”“テクノロジーを活用したかつてないフィット感”といった核になるキーワードを公表した。
質疑応答で「PBは成功するのか」との質問に対して、「上手くいった場合、これまでのファッション企業では考えられなかったような規模のビジネスになるでしょう。失敗した場合ももちろんある程度の対処法は考えています。一応僕も1兆円企業を作り上げたわけで、ローリスク・ハイリターンのビジネスをつねに考えています」とコメント。一般的に思い描く“アグレッシブなIT社長”という人物像がそこにはあった。
READ MORE 1 / 1 翌朝、代官山でバスキア作品を公開
翌朝11時、前澤社長は代官山に姿を見せた。自身が設立した現代芸術振興財団の「CAF(Contemporary Art Foundation)賞」作品展が始まるからだ。会場には今年5月に約124億円で落札し話題になったジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)の作品を含む前澤社長のコレクションが数点展示されるとのこと。こんな貴重な機会はないと、オープンとともに会場に駆け込んだ。
前澤社長は会場端の椅子に腰掛けていた。声をかけると、「昨日もすぐに(決算)記事をあげてくださり、ありがとうございます」と返事をくれた。そこには前日の“ビジネスマン”ではなく、温和な表情の現代芸術振興財団会長としての顔があった。「ここに持ってきたのはほんの一部で、家にたくさん作品を保管しています。(自身のコレクションを集めた)美術館をとにかく早くやりたいんです」と話す前澤社長は本気の口調だった。
以前、バスキア作品の購入について、「そのお金を寄付に回してはどうか」「作品の良さがわからない」といった批判された際、前澤社長は「世界中のいろんな人種のいろんな嗜好があるにも関わらず、いつも決まって特定の作品に注目が集中するんです。(中略)その『マスターピース』と呼ばれるものが、他の作品とどう違うのかは、歴史的な背景などの理屈で説明できる場合もありますが、多くの場合、理屈抜きにして、明らかに違う圧倒的なオーラを放っているのです。(中略)アートも、音楽も、ファッションも、ビジネスも、きっと『マスターピース』と呼ばれる、理屈で説明するのはとても難しいような、そんな名曲や作品やアイデアや会社や人が、多くの価値を生み、多くの変革を時代に投げかけてきたように思います。そんな偉大なるマスターピースに触れたり買ったりしながら、自分自身でもいつかそんなマスターピースを世の中に生み落とせたらいいな、と切に思います」と自身の見解を示した。
私もバスキアの作品を見た時、前澤社長の発言の意図が分かったような気がした。時代に変革をもたらす、心を動かすような“マスターピース”は確かに存在するだろう。バスキアの「Untitled」もそうだし、何より前澤社長のビジネスがそうだ。常に新しいサービスを打ち出し、それらは全てアパレル業界で良くも悪くも大きな話題となる。“マスターピース”が存在し、それが人を動かし時代を変えるという意味では、アパレルもアートも同じなのだろう。バスキア作品の展示と決算会見という全く異なる現場でも、前澤社長の根底にある思想は同じなのかもしれない。そんなことを考えた2日間だった。