ワンオーのコンセプトショップ「ナカザキ オー ハウス」
ナカザキ オー ハウスは「クリエーターが集まるアパート」がコンセプト
ブランドPRやファッションイベントなどを手掛けるワンオー(旧PR01)は10月28日、大阪・中崎町に初のコンセプトストア「ナカザキ オー ハイツ(NAKAZAKI O HEIGHTS)」をオープンした。
梅田から徒歩圏内にありながら戦前の町並みが残る中崎町は近年、クリエーターや個性的な店が集まるエリアとして注目を集めている。出店したのは小さなショップが軒を連ねる細い路地の一角。“クリエーターが集まるアパート”をコンセプトに、3階建ての古い日本家屋を改築した。1階は余剰在庫をアップサイクルしたロサンゼルス発のブランド「アトリエ&リペアーズ(ATELIER & REPAIRS)」とビンテージ古着など約400点をセレクト。2階には「マイコ ナガヤマ(MAIKO NAGAYAMA)」「ラスティ ソート(RUSTY THOUGHT)」など日本のジュエリーブランドをそろえた。
ディレクションは、長年にわたってアメリカ西海岸の文化やジーンズファッションを日本に紹介してきたワンオーの大坪洋介シニアマーケティングディレクターと、日本のジュエリーブランドを国内外に発信する神谷温子クリエイティブディレクターが担当した。フリースペースの3階ではオープンを記念して、大坪ディレクターが29年間のロサンゼルス生活で集めたビンテージ雑貨や食器など約300点を展示・販売する。
いずれも、それぞれの偏愛視線で集めた一点モノやそれに近いものばかり。大手SPA(製造小売り)や有名ブランドのショップが集まる梅田エリアとは異なり、独自の文化を持つ中崎町ならではのビジネスを目指す。
ワンオーの松井智則・社長は「これまでは主に欧米ブランドを導入し販売してきたが、日本独自のとがったものもやっていきたい。グローバルに飛び回る人たちが、町自体のパワーやそこでしか体験できないコトを求めて足を運んでもらえる店にしたい。環境を含めたこの空間でゆっくりくつろぎながら買い物してもらうことが大切」と初のコンセプトショップについての抱負を語る。
アッシュ・ペー・フランスのPR01事業部が独立する形で昨年12月に設立された同社は、最近は「シブヤファッションフェスティバル」や台北でのクールジャパン事業など、国や地方自治体との取り組みが増えている。2016年には阪急電鉄とコンサルタント契約を結び、梅田の街作り事業に参画した。大阪と地縁がある松井社長が、昔から親しみを感じていた中崎町に新たな拠点を作りたいと今回の出店を決めた。
中崎町の魅力については「空襲で焼け残った昔の町並みと今の建物とのバランス感が大好き。都会の中にありながら不思議と落ち着く。誰にとっても地元感が感じられる町」と話す。
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大坪ディレクターが集めたビンテージ雑貨も販売する
ワンオーの松井社長は出店に合わせて中崎町でエシカルイベントを開催した
エシカルイベントのトークショーに登壇した純さん(右から2番目)
純さんが運営するカフェ「サロン ド アマント天人」
中崎町の盛り上がりには仕掛け人がいる。
01年に開業したカフェ「サロン ド アマント天人」の代表を務める舞踏家の純さんだ。このカフェを手始めに空き家再生による町作りをけん引してきた。
「ここは日本の昔の暮らしが残っている場所。暮らしながら作品を作りたいという思いから一人で始めた。コストゼロで古民家を改装して店を作ったのが評判になり、若者が集まり始めた」と振り返る。現在は、映画館やギャラリーなど純さんの仲間が運営する店舗は17に増えた。行政の助成金に頼らず町を活性化したことで注目され、国内外からの視察も多い。
純さんが今、地域の人たちと取り組んでいるのが、スマホで見られる防災マップの作成だ。古い日本家屋が密集する中崎町にとって防災対策は町全体のテーマ。「防災防犯に配慮した町作りをすることで、外国人観光客にも安心して来てもらえる。日本人が何を得て何を失ったかを感じてもらい、アーティストによって世界に発信していけるのが中崎町の魅力といえる」。一方で、家賃が高騰して、クリエーターが町を追い出されることのないよう、防災などの地域貢献がますます必要になってきているという。
「こうしたボランティアと仕事を分けないエシカルな暮らし方が、新たなカルチャーを生み、消費動向に革命を起こせる」と純さんは主張する。
「サロン ド アマント天人」をはじめとする約100店舗が、エシカルをキーワードに参加するイベント「イコール(=)フェスティバル イン中崎町」も11月5日まで行われた。10月29日の初日には、物々交換会やフリーマーケット、飲食ブースの出店のほか、情報誌「ミーツリージョナル」編集長のトークショー、大宮エリーによる「スナックエリー」などが開かれ、悪天候にもかかわらず約1000人が来場。参加店舗も特別イベントを開催したりアートギャラリーをオープンしたりで町を盛り上げた。
直営店のオープンに合わせてイベントを主催したワンオーの松井社長は「自分たちも町と一緒に成長していきたいという思いでフェスを企画した。大量消費やトラフィック(通行量)に合わせたビジネスにみんなが疲れ始めている今、エシカルの要素も必要だと感じている。これを機に、価値観が同じブランドやショップの誘致もしたい」と語った。