インフルエンサーがファッション、ビューティ、ライフスタイル、ホテル、エアライン、車などあらゆるブランドの商品を自らのSNSでリコメンドし、その投稿に表記をつけることは一般化しつつある。インスタグラムは7日、インサイト機能が利用できる全てのインフルエンサーがスポンサー関係にある企業アカウントとのタイアップ投稿において、「XXX(ブランド名)とのタイアップ投稿」というタグを表示できる機能を導入した。日本国内も対象となり、タイアップ投稿であるにもかかわらずPRタグをつけていないアカウントを見つけた場合、タグ付けを促す通知を送るという。だが、予想通りと言ってはなんだが、PRタグによってお金が絡むとわかるとエンゲージメント(フォロワーによる好意的反応)率が下がることがデジタルリサーチ会社L2の研究で明らかになった。
マイク・フロガット(Mike Froggatt)L2情報部ディレクターの調査対象になったのは、世界のトップ9人のインフルエンサーの2017年1月1日から8月31日にかけて投稿された5667投稿(表1参照)。連邦取引委員会のガイドラインに基づき「#ad」「#partner」「#sponsored」のハッシュタグがつけられたものを企業やブランドから報酬を受けた投稿として判断した。PRタグがついたものは9人の全投稿のうち7%だったが、明らかに報酬を受けた投稿と分かるものから、PRタグを“忘れた”らしきものまでインフルエンサーによって大きな差があった。
表1
1.エイミー・ソング CORNEL CRISTIAN PETRUS / REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
2.アンバー・フィラアップ・クラーク ASTRID STAWIARZ (c) Fairchild Fashion Media
3.アリエル・チャーナス ANGELA PHAM / BFA / REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
4.キアラ・フェラーニSANSHO SCOTT / BFA / REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
5.クリスティン・アンドリュー MEDIAPUNCH / REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
6.ダニエル・バーンスタイン
CARL TIMPONE / BFA / REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
7.ジュリア・エンジェル SAM DEITCH / BFA / REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
8.ジュリー・サリニャーナ CARL TIMPONE / BFA / REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
9.レイチェル・パーセル REX / Shutterstock (c) Fairchild Fashion Media
それぞれのインフルエンサーのインスタグラム投稿のうちPRタグがついた投稿の比率、PRタグなし投稿と比較したPRタグつきの投稿の平均エンゲージメント率の結果は以下の表の通りだ。PRタグつき投稿のエンゲージメント率が最も高かったのはエンジェルで、PRタグつきの場合で3.6%減。ジュリア・エンジェルはPRタグをつけた投稿もアンドリューに次いで2番目に多かった。
一方、PRタグつき投稿のエンゲージメント率が20%以上減ったのは、ジュリー・サリニャーナ、アンバー・フィラアップ・クラーク、レイチェル・パーセルの3人。特に0.7%しかPRタグをつけていないサリニャーナは判断材料に欠けるという結果になった。
この結果を受け、フロガット=ディレクターはブランドは「タイアップのインフルエンサー候補がもしどんなブランドからも仕事を受けるような“浮気性の”インフルエンサーなら、他のしっかりと契約を守るようなインフルエンサーを探したほうがいい」と語る。
「ベネフィット」のアイブローコレクション 「ベネフィット」公式ECサイトから
LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)傘下のコスメブランド、「ベネフィット(BENEFIT) 」は失敗からこの教訓を学んだブランドの一つだ。とあるインフルエンサーを起用しアイブローのコレクションをローンチするはずだったが、そのインフルエンサーが自身でアイブローのコレクションをローンチしてしまったのだ。
トートー・ハバ(Toto Haba)=ベネフィットデジタル部門シニア・バイス・プレジデントは、そのインフルエンサーの名は明かさなかったものの、「当時はインフルエンサーを独占的に起用していなかったが、そうすべきだった。そのインフルエンサーはわれわれもしっかり下調べしていた。だが、われわれのイベントへの参加を承諾する前に(他社との関係を)暴露しても、彼女にとってはメリットがないからね。今は、信用できて正直に打ち明けてくれるインフルエンサーを探している。“一夫一妻制”で長期的関係を築きたい」と話した。
1度限りの投稿では、インフルエンサーとパートナーシップを結んだとはいえない。たとえ1度の投稿で売り上げが急増したとしても、それはインフルエンサーと将来的に長期的関係を築くための小さな一歩にすぎない。言い換えれば、深い関係性を築けない一度限りの投稿は“一夜限りの関係”にすぎないということか。こうしたブランド側の意見について、インフルエンサー側はどう思っているのか。
ノードストロムECサイト内の「サムシング ネイビー × トレジャー&ボンド」特設ページ ノードストロム公式ECサイトから
「PRタグ付き投稿のエンゲージメント率がPRタグなしの投稿より低いのは予想通りだし、当然。でもそれが原因でビジネスに悪影響が出るとは限らない」と語ったのは米百貨店ノードストロム(NORDSTROM)とのコラボコレクションを24時間で1億円売り上げた記録を持つアリエルだ。
だが、アリエルがフォロワーからの信頼を保持したままインスタグラムでビジネスをするまでには長い道のりがあったようだ。当初自分の趣味で仕事がもらえることがうれしくて仕方なかったアリエルは、一緒に仕事するブランドをきちんと選んでいなかった。特に2年前のあるアクセサリーブランドとの仕事は「本当に無意味だった」と振り返る。
アリエルはハイブランドとファストファッションブランドをミックスしたスタイリングで知られるが、お気に入りの靴は「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)」「セリーヌ(CELINE)」「ディオール(DIOR)」「マノロ ブラニク(MANOLO BLAHNIK」。バッグなら「シャネル(CHANEL)」といった具合に、アクセサリーに関しては常にハイブランドを着用している。そんな中、アリエルがフォロワーにおすすめした同アクセサリーブランドの商品は全て100ドル(約1万1400円)以下だった。
「私がそのブランドのアクセサリーを着けないことをフォロワーはお見通しで、とても動揺させてしまった。ずっと私のことを見てきたフォロワーは、私が私らしくないことをすればすぐに気づき、正直に『自分では着ないでしょ』とコメントしてくる。それで自分のフォロワーへの影響力に気づいた。私自身だけでなく、私がおすすめする商品もフォロワーからの信頼がなければいけないことを学んだわ」。現在はノードストロム以外にサックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)や「オレイ(OLAY)」と長期契約を結び、投稿にPRタグをつけることはもちろん、契約したこともフォロワーにきちんと報告している。
アリエル・チャーナスと娘のルビー アリエル・チャーナスの公式インスタグラム(@somethingnavy)から
例えば、1歳の娘、ルビー(Ruby)もお気に入りのスープを生産する会社はアリエルの知り合いが立ち上げた会社で、アリエルが欲しい商品を提案したことがきっかけで契約を結ぶようになった。だが、一度の投稿で多額の報酬をもらうのではなくアリエルがそのスープ会社に出資することで、代わりに好きなように投稿できるようにし、長期的関係を築いている。
アリエルの今のビジネスモットーは“レス イズ モア(Less is more)”。1度限りの投稿で終わる仕事をたくさんのブランドとこなすのではなく、現在は6〜12カ月の長期契約を、数は少なくてもアリエルと相性のよいブランドと結ぶことを心掛けている。1度限りの投稿で終わる仕事を避け、1度の投稿で最大1万5000ドル(約170万円)を得られる仕事を断ったこともあったという。
(後編に続く)