インフルエンサービジネスの現場前編では、PRタグをつけるとエンゲージメント(フォロワーによる好意的反応)率が低下する調査結果を示し、また、コスメブランドの「ベネフィット(BENEFIT)」とインフルエンサーのアリエル・チャーナス(Arielle Charnas)がそれぞれの失敗例をもとに、1度だけの投稿で終わる“一夜限りの関係”ではなく、長期的関係が理想と語った。では、インフルエンサービジネスの最前線を行くインフルエンサーエージェンシーはどのように考えているのか。
アイリーン・キム(Irene Kim)などのインフルエンサーも所属しているモデルエージェンシー、ザ ソサエティ マネジメント(THE SOCIETY MANAGEMENT)のマネジャー、クレア・ガイ(Clare Ngai)は、ときには報酬が数十万ドル以上でも、インフルエンサーの悪評につながろうと仕事を断るようにアドバイスすることがあるという。「もしラグジュアリーファッションばかり身に着けるインフルエンサーが突然『JCペニー(JC PENNY)』について投稿したらバレバレでしょ」というセリフは、ガイがインフルエンサーに仕事を断るようにアドバイスするときの常套句だ。
例えば、女優そしてDJとして活動するカル・リヴェロ(Calu Rivero)は88万人以上のフォロワーを抱えるインフルエンサーでもある。カルはヴィーガンでエコでサステイナブルなファッションを公にサポートしており、ガイは彼女にはレザーやファーを多く使用するブランドや、ファストファッションブランドとは仕事させないようにしているという。「彼女の意思を尊重し、彼女と合わないブランドとの仕事を断るようにしている。数年前はなぜ仕事を断らなきゃいけないのか周りには理解されなかったが、今はパートナーシップが“本物”であることが大事だという考えが広まってきた」と、「なんでもあり」だった数年前のインフルエンサービジネスは今や発展を遂げ、消費者もまたブランドとインフルエンサーの関係の真偽を見極められるようになったと語る。
また米大手エージェンシー、クリエイティブ アーティスト エージェンシー(CREATIVE ARTISTS AGENCY、CAA)のフォー・アルレタ・ファウラー(Fo Arleta Fowler)は、どのSNSに投稿するか、投稿にはどんなコメントをつけるかまでブランドがインフルエンサーにあれこれ口出ししてくると、その仕事は頓挫することが多いという。「ブランドにとって、クリエイティブのコントロール権を断念するのは難しいものがある。『いいから、ただわれわれのメッセージを多くの人に届けてくれ』とブランド側は言うが、それには多くの制約がある」と話す。
ファウラーの経験からすると、インフルエンサービジネスがうまくいくパターンは、ブランドがブランドメッセージを作り始めた段階でインフルエンサーがプロジェクトに参加し、クリエイティブについて意見を言える環境が整えられている場合だという。