ファッション

パリ発日本人クリエイターが紡ぐ“物語のある服” 「エコール・ド・キュリオジテ」

 「ファッションブランドであり、学校のような存在」自身のブランドをそう表現するのはパリのブランド、「エコール・ド・キュリオジテ(ECOLE DE CURIOSITES)」のファウンダーでクリエイティブ・ディレクターのHANS ITO。2017年春夏のデビューコレクションから、ドーバー ストリート マーケット ロンドン(DOVER STREET MARKET LONDON)など、世界各国のバイヤーが買い付けた注目の新進ブランドだ。

 ブランド名はフランス語で、“好奇心の学校”を意味する。学校の真意も気になるところだが、筆者がメディアの記事を読んで惹かれたのは“物語のある服”というコンセプトだ。コレクションごとにアートをテーマとした掌編小説が書き下ろされ、ITOが物語の世界を服へと置き換える。モードとアートと文学の融合によって紡ぎ出される洋服は、着心地よさと機能性、シルエットの美しさ、ディテールにまでこだわりぬいてデザインされる。着用と洗濯を繰り返すことで味わいが出てくる素材や加工を用いて、ともに年を重ねることが楽しみになる至上の逸品。ブランドの奥深い魅力に好奇心をかき立てられ、パリ市内のアトリエへと足を運んだ。独自の世界観を築きあげる、彼自身の物語をひも解いていく。

――ブランドの立ち上げはいつ?

HANS ITO(以下、ITO):「エコール・ド・キュリオジテ」のプロジェクト始動は3年前。2年前にアトリエを構え、昨年発表した2017春夏で本格的なデビューです。

――デザインを手掛ける時のこだわりは?

ITO:“あまりデザインしないこと”にこだわっています。テクノロジーがいまほど発達していない時代の手仕事によって作られた品物の素朴さ、ぬくもり、使い古された味など、ありのままの素材を損なわないように心掛けています。しっかりデザインをしてキレイに仕上げるのではなく、少しのひねりによって形を変貌させて、物に新たな役割を与えるのです。ディスプレーのためにオリジナルで作成したスプーンやフォークを用いたハンガーがいい例で、展示会の来場者には「えっ!このハンガー、スプーンでできているの?」と聞かれることも多いです。キレイなだけのデザインではなく、見た人をハッとさせるユーモア、好奇心をかき立てる面白さを見出すよう、素材を大切に、さり気なくデザインするというのは小物や洋服すべてに通じるこだわりです。

――古き良き時代やものを重んじ、作り込み過ぎずさり気なさを大切にするというのはフランスらしい美意識だと感じます。

ITO:そうですね……。“粋”が何かということは、フランス映画を観て多くを学びました。それがフランスという国に興味を持ったきっかけでもあります。キメているわけではないのに素敵に見えるフランス人のスタイルは、まさに崩し方の妙を心得ているからでしょう。経験だけでは養われない、持って生まれたセンスは、フランスが長い歴史の中で培ってきたものではないでしょうか。特に最新の2018春夏コレクションはメード イン フランスにこだわり、職人と共に可能と不可能のせめぎ合いの中で制作に取り組みました。フランス人が身につけている絶妙な塩梅や黄金比は比類なきもの。言葉で説明して習得できるほど安易ではないですし、僕もパリで暮らしながら日々フランス人から学び続けています。

――ブランド名のエコール(学校)にはどんな意味が込められていますか?

ITO:「エコール・ド・キュリオジテ」はファッションブランドであり、一方で学校のような存在です。毎シーズン創作される掌編小説が教科書の役割を持ち、その教科書の下で試行錯誤しながら一着一着のデザインを考えていきます。教科書という制約があるからこそ創造性はより豊かになるのです。型がなければ努力しても本物のアバンギャルドにはなれないように、制約の下でいかに創造力を膨らませるかという挑戦です。僕はこの学校でクリエイティブ・ディレクターという名の教師で、パターンはパタンナーの教師に、刺しゅうは刺しゅうの教師にお任せしてコレクションを制作します。ブランドの世界観やコンセプトを共有したうえで、各人のクリエイションがぶつかり合うことで放たれる火花が、いいものを生み出すと感じています。言葉ありきで複合的にやりたいというのは当初からの思いで、このような形になりました。

――エンドユーザーも学校の生徒になれる?

ITO:そうですね。学校は学びの場なので、チームで学び続けることを大切にしていて、同じようにエンドユーザーにも学ぶ姿勢を持ってほしいと思っています。例えば、天然素材を使用しているアイテムは、長く愛用するための正しい洗い方を習得して手間暇かけてほしい。僕らチームが学んでいるのは先人の知恵や実践で得られる知識など、教科書には載っていないこと。今後はエンドユーザーともそれらの知識を共有してキャッチボールができるような、プラットフォームを作ることは考えています。

――目指しているゴールは?今後の展望があれば教えてください。

ITO:日本の侘び寂びといった美意識、奥行きを見る目、独特のリズムなどがクリエイションに影響している部分もあり、日本から離れたからこそ再発見できた素晴らしい魅力をたくさん感じます。その感覚が今後クリエイションに生かされるかもしれません。クリエイターとしては、過去から受け継がれている物や事柄といったクリエイションの“素材”を、自分のフィルターを通して取り入れながら、独自に創り続けたい。そして届けていきたいです。リサーチやマーケティングを経て創られる予定調和なものではなく、想定外の学びや発見、ハッとする驚きを与えられること目指して。効率化を求めてテクノロジーが発展していく時代ですが、そこに対してはアンチテーゼを掲げていくつもりです。学びの姿勢を崩さず、真摯にクリエイションを続けます。好奇心の赴くままに。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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