PROFILE:1988年群馬県桐生市出身。文化服装学院在学時、スタート直後の「ドロップトーキョー」にスナップされ、ほどなくしてカメラマンとして加入。写真を一から独学する。11年から数年アパレル会社に勤務。その後復帰し、現職に至る
いま、東京のストリートシーンを語る上で欠かせないスナップサイトが「ドロップトーキョー(Droptokyo以下、ドロップ)」だ。2007年の立ち上げから渋谷、原宿、表参道といった“ストリートスナップの聖地”を拠点に活動を続け、感度の高い人選、独特な色味の写真、一般的なストリートスナップとは一味違うファッション性の高いポージング・ロケーションで若者を中心に人気を集め、インスタグラムのフォロワーは開設から約4年で約26万人と長足の成長を見せている。そして、10月には10年の活動をまとめた集大成の書籍「DROPtokyo 2007-2017」を発売し、来週にはラフォーレ原宿での写真展を控えている。そんな破竹の勢いを続ける「ドロップ」を支えているのが、岩野一真ディレクターだ。「『ドロップ』っぽい」とまで言われるスナップのこだわりや、ストリートという“現場”に常にいるからこそわかるファションの潮流などについて話を聞いた。
WWD:「ドロップ」は、他のサイトと比べ、コントラスト・彩度がかなり強い印象があります。その意図は?
岩野:この時代、ストリートスナップは一眼レフを買わなくてもiPhoneで撮れてしまうように、誰でも撮れるものです。そうなった時に僕たち「ドロップ」の目に映った被写体たちは、非現実のように美化されないといけない。例えばあまりにコントラストが薄いと生っぽくなり過ぎてしまうので、コントラストや彩度を強め、インパクトがある写真に仕上げています。
「書籍用に少し2017年風に戻しちゃっていますが、いまのイメージとかなり違うと思います。生っぽい写真ですね」と岩野ディレクター。 Best Snap of 2014 / 「DROPtokyo 2007-2017」から
「書籍用に少し2017年風に戻しちゃっていますが、いまのイメージとかなり違うと思います。生っぽい写真ですね」と岩野ディレクター。 Best Snap of 2014 / 「DROPtokyo 2007-2017」から
WWD:以前から同様の加工を?
岩野:時代に合わせています。13〜14年のノームコアの流れの時はファッションが面白くはなかったので、マットな質感を出したくて彩度やコントラストを抑えた“薄い写真”にしていました。いまのインフルエンサーのはしりのような子たちを撮らなきゃいけなかったので、「より人が美しくなる写真ってなんだろう」と考えた結果ですね。
WWD:加工についてはスタッフ同士で話し合いを?
岩野:いや、僕の独断です(笑)。
WWD:彩度・コントラストに加え、モデルが特異な印象もあります。感度の高い人選はどうやって?
岩野:一応10年やってきて、「自分たちがどういう人を撮らなきゃいけないか」って考えた時に、エッジが利いたスタイルを撮りたいとは心掛けています。ただ、「ファッションはいいかもしれないけど、それだけでとりあげるべきなのか」ってことで、その人が“イケてるか、イケてないか”のジャッジはありますね。僕たちの中で“ドロップフィルター”って呼んでいるんですけど、「なんで撮ったの?」って聞かれた時に「ただよかったから」だけじゃなくて、「なんでいいのか」「その子が何をやっているのか」まで、ちゃんと責任を持てるかどうか。「オシャレ=洋服」ではなくて、マインドやカルチャーの部分だったりが確立している子たちを届けたい。
感度の高い人選は、他のメディアと比べて被写体との距離感が近いのが大きいと思います。例えば音楽のジャンルなら、若い世代がどういったところに興味があるのかリサーチがすぐできる。渋谷の古着屋「ボーイ(BOY)」のオーナーのTOMMYくん(奥冨直人)の目利きがスゴいので、そこを頼りながら撮る場合もありますね。
WWD:ストリートスナップなのに洋服のクレジットがほとんどありませんが。
岩野:最近は明記しないようにしています。昔は書きたがっていたんですけど、いまは被写体の子たちが書きたがらないのもあります。フォトグラファーからしてもいい被写体に会える時間は限られているので、すぐ次にいきたいんですよね(笑)。アンケートの必要もないファッションが増えたってのもあります……。それで、人選とも相まってその人たちのスタイルを紹介する軸が強くなってきたので、ウェブサイトのストリートスナップのコンテンツ名を“ストリートスタイル”に変えました。
WWD:ストリートっぽさを出すために心がけていることは?
岩野:それぞれのフォトグラファーには、「その子のファッションが生き生きする場所で撮影してほしい」と伝えています。ストリートスナップってどこで撮ってもいいので、見つけたところで撮ることもあります。でも人を選んで撮っているんだから、「なんでその人を選んだか」、そして、「この人は自分の知っているあそこで撮った方がよりかっこよくなりそう」みたいなのは大切にしてもらってますね。
READ MORE 1 / 2 岩野が思うここ10年のストリートスナップの潮流
「ドロップトーキョー」の公式サイトから
「ドロップトーキョー」の公式サイトから
「ドロップトーキョー」の公式サイトから
「ドロップトーキョー」の公式サイトから
「ドロップトーキョー」の公式サイトから
WWD:最近リニューアルしたサイトの新しいコンテンツ“FOREVER HEROS”とは?
岩野:半年に1回、「ドロップ」を象徴するモデル50人を編集部が独断と偏見で選んでいます。人によってはいなくなっていく人、ウナギのぼりだった人が収束してしまう場合もある。だから半年に1回ちゃんと見直して、旬な人たちを大事にしていきたい。いまの子たちは「ドロップ」のインスタグラムに載ることがステータスだったりするんですけど、さらにその上の“FOREVER HEROS”に選ばれることが憧れになって、オシャレを楽しんでもらえるかなって思い作りました。ウェブサイトの認知度が低いんですけどね(笑)。
WWD:最近は着たい服よりも、スナップに撮られるためだけの服ーー言ってしまえばSNS・インスタ映えを狙ったようなファッションが増えたように感じます。ここ10年のストリートスナップの潮流はどう感じますか?
岩野:昔の方々は、僕たちがそうだったように学生はローンを組んで高い服を買って、ストリートスナップに撮ってもらうっていうのが一種のステータスだったと思うんです。でも今の子は撮られなくても自分たちでSNSを使ってアウトプットができる。なので、街にいるときのほうがオシャレじゃないなって思いますね。
例えばスナップ常連の子に街で遭遇して「今日の格好いいね、撮らせてよ」って言っても「いや、今日地味なんでやめておきます」みたいなのが全然あったりします。これまでは原宿とか渋谷を歩き回りながらスナップする形だったんですけど、そういう子たちが多くなってきました。友達との用事を済ませるためにしか街に出ない子も多いです。なので、ファッションを伝えるメディアとして、いい写真を撮ったりファッションを紹介する機会を自ら作り出さなきゃいけないと最近思いますね。
WWD:ストリートという“現場”に常にいるからこそわかる、いまのファションとこれからは?
岩野:いまは“流行”が速すぎて、“流行”になるまでにポンポン新しいのがきている。ただ、ラグジュアリーブランドがストリートに落ちてきている流れはもう少し続くと思う。日本はノームコアの終わりが見えた14年ごろから面白い兆しが見えているのかなって感じますね。おそらくもう1年くらい経つと、それぞれのファッションのジャンルでのスターがより特化していくと思います。いまはロリータ系とか雑誌「ケラ(KERA)」系みたいな、自分の世界観をトータルでブランディングしている子が少ないですが、そこでの支持を得ることができれば一定の影響力を確立できる。その人たちが“ストリート”のマインドを持ち続けれればの話ですけどね!(笑)。
READ MORE 2 / 2 これからの「ドロップ」の10年は?
10年の活動をまとめた書籍「DROPtokyo 2007-2017」。表紙はマドモアゼル・ユリア(左)と小松菜奈。撮影は岩野が行った
WWD:ウェブメディアであるにもかかわらず、10年の軌跡をなぜ紙で?
岩野:ウェブメディアとしてやっぱり、社長も僕も「紙っていいよね」って憧れを持っていたんです。原宿のストリートを代表する雑誌「チューン(TUNE)」と「フルーツ(FRUiTS)」がなくなって、いまの若い子たちに過去の原宿や東京のストリートカルチャーを理解してもらわないとこれから先、良くない方向に行くのかな?ってなんとなく思い、手に取っていつでも振り返って、「あの当時こうだったよね」って言ってもらえるためにも書籍が理想だったんです。
WWD:今の世代は紙への憧れが薄いと思います。それでもこの世代に響くと思いますか?
岩野:現状、自分のブランディングで「なに読んでるの?」って聞かれた時にウェブメディアを挙げる人はいないと思います。自分が読んでいる雑誌を答えることが一種のブランディングになっています。例えばインスタグラム等が普及して誰でもモデルを名乗れる時代なのに、「どこ載りたいの?」って聞いた時に紙しか出てこないんですよ。14歳とかのモデルでも、20歳前後の子でも。やっぱり紙は自分の身を固める上では必要なツールだと思っています。いまの若い子たちも自分が興味のあることが詰まっていれば読むと思います。
WWD:表紙の撮影場所(原宿の交差点)は、ストリートスナップの聖地だから?
岩野:ずっとこのエリアを大事にやってきたからですね。もっとかっこいい背景で撮りたいってのはあったんですけど、やっぱり表紙の意味はどこでも聞かれるかな?って(笑)。
WWD:12月には出版記念イベントをやるそうですが?
岩野:19〜25日、ラフォーレミュージアム原宿で大型の写真展を開催します。書籍の写真はもちろんですが、載り切らなかった膨大なアーカイブから一堂に展示します。書籍よりも写真が大きく展示されているのはもちろんですが、僕たち編集部も誰かしらが常に在廊し、写真の解説も行う予定です。知らない人たちに東京のストリートカルチャーって今こういう風になってて、昔はこうだったんだよって知ってもらえる機会になればいいなって思います。
WWD:これからの「ドロップ」の10年は?
岩野:ストリートスナップはずっと撮り続ける。本当にこれだけをずっとやってきたので。時代に合わせてブログだったりの企画をやってきたのですが、読者が求めているのはやっぱりストリートスナップなんです。いろいろな情報を発信していくというよりは、「ストリートスナップといえば『ドロップトーキョー』」と言われるまで、自分たちの強みとしてもこれからもストリートスナップを撮りたい。
ただ、自分たちのこれからは日本だけにとどまらずにいようかなと。「ドロップトーキョー」に出ている人に、参考にしているモノって何かを聞くと、90%くらいの確率で「海外スナップ」って返ってくるんです。でも「海外のストリートスナップって何がある?」って聞いても出てこない。いわゆる若いインフルエンサーは「海外ストリートスナップ=おしゃれなもの」っていう認識があって、それ言っておけば間違いないと思っているんです(笑)。
それは海外のストリートフォトグラファーが減ったのもありますが、ちゃんとフィルターがかかってそれが集約されている場所がないということ。要は海外のストリートスナップを純粋に楽しめる場所がないんです。だから、“ドロップフィルター”を通して、「ドロップトーキョー」のサイト内にニューヨークだったり、パリだったりを作りたい。現地にいるフォトグラファーじゃないと、現地のことはわからないんですよ。僕がニューヨークに行っても当たり障りのない人しか撮れないんです。継続もされないし面白みもない。だからしっかりとした拠点を現地に作って1つのブラウザの中で完結させるのが目標ですね。日本の1番を求めるんじゃなくて、世界から求められるようなコンテンツを作る。海外からの需要もそうですけど、日本の人たちがおしゃれにならないとつまらないんです。日本の人たちをもっとおしゃれにするためにも、海外からの情報を得ていかなきゃいけないなって。
■TOKYO STREET FASHION ARCHIVES 2007-2017 by Droptokyo
日程:12月19〜25日
時間:19日 14:00〜17:00 / 20〜24日 11:00〜21:00 / 25日 11:00〜17:00
場所:ラフォーレミュージアム原宿
住所:東京都渋谷区神宮前1-11-6
入場料:無料