「WWDジャパン」2000号が11月6日に発売された。1979年の創刊から現在に至るまで、39年分のファッションニュース、時代を象徴するコレクションなど過去を振り返りつつ、現代のデザイナーや経営者たちのインタビューを掲載し、ファッションの未来を探る特大版だ。そこで「WWD JAPAN.com」では2000号の制作に携わったスタッフのコラムを不定期連載としてお届け。この号の編集を通して未来を見つめた、老(?)若男女幅広いスタッフたちの気付きや意見に、くみ取っていただける何かがあればさいわいだ。
2000号のスペシャル企画として約2年半ぶりに「サカイ(SACAI)」の阿部千登勢さんにお話を伺う機会がありました。印象的だったのは2年前と比べて“しなやかさ”が増したこと。芯はあるけど、風が吹けばゆらゆらゆれる木みたいな感じでしょうか。阿部さん自身も「自分の中で一本筋が通っているけれど、現在進行形で変化している」と話していたし、「昔の方がこうだって決めたらもっと強かったかも」とも言っていました。2年半で、しかもインタビューの2時間足らずでも変化を感じたから、昔の阿部さんってどんな感じだったのかな?お会いしてみたかったなと思いました。
個人的に“しなやか最強説”を信じています。芯を持ちながら、変化の波にもうまく乗りつつ、流され過ぎないのは最強だと思うし、そんな風になれたらと思っています。阿部さんってまさにそれを体現していると感じます。「クリエイションも人間関係もすべてバランスが重要」、クリエイションに関しては「裏切り(=新しさ)と安心のバランスが需要」とも話しているし、作ったもの、書いた文章、撮った写真など、隠そうとしてもなんだかんだで、その人自身が映り込んでくるし、阿部さんはそのさじ加減が絶妙なんだろうなと思いました。
ちなみに2年半前といえば、売り上げが100億円を超えた頃で、「サカイ ラック(SACAI LUCK)」を「サカイ」に統合して販路を整理し、プレ・コレクションをスタート。世界の有力百貨店にショップをオープンし、ラグジュアリー・ブランドといろんな意味で肩を並べようと仕掛けていた頃です。阿部さん自身はホワイトハウスに招かれたり、世界の有力誌にもガンガン取材されたり。今思えばバッグビジネスを構想していた頃だろうし、「サカイ」と阿部さんを取り巻く環境が目に見える見えないに関係なく、目まぐるしく変化しているタイミングでした。紙面で特集を組むということもあり、阿部さんも「語るべきこと」をしっかりと用意し、慎重に言葉を選びながら話されていたのが印象深かったです。
あらためて見ると、言葉だけではなく表情にも変化が感じられますよね。
今回最も印象に残り、そして勇気をもらったのは、「すごくしつこい性格です(笑)。本当にしつこくて私はそれを努力と呼んでいます」という言葉でした。ネガティブな印象の言葉“しつこい”も彼女が話すとポジティブワードになるから不思議です。というか、さわやかに、しかもオフィシャルのインタビューの場でそれを言えちゃう阿部さんが格好いいなと思いました。なかなか言えないですよね。しつこく考え抜くことが美しいと感じたし、私自身もそうありたいと再確認できました。もともと私自身も考えるのが趣味のようなところがあるのですが、入社した頃に向編集長に「考えることを諦めないで」と言われてから、より意識するようにしていました。ですが、たまに「あーー、もーー無理っ」てなることもあって(笑)。
こうしてインタビューを振り返ると、阿部さんの言葉には、ファッションに携わる携わらないに関係なく、生きるヒントがたくさんあるなと思います。生きていると誰もが感じることを誰もがわかる言葉で伝えてくれるから。だからこそ、阿部さんの言葉って強いし、ズシンと重みがある。たまたま話の軸がファッションなだけであって、話していることは生き方や取り組み方、考え方にも通じます。“サプリ”を摂るような感覚で、多くの方に読んでいただけたらうれしく思います。